【キャリアアップ助成金】短時間労働者労働時間延長支援コースとは?

「人手不足をなんとかしたい」「優秀なパート従業員にもっと長く働いてもらいたい」「年収の壁や社会保険加入の問題にどう対応すればいいのか分からない」…

これらは、多くの中小企業の経営者や人事担当者が日々直面している課題ではないでしょうか。

特に近年注目されているのが「年収の壁」問題です。従業員が年収106万円や130万円を超えると、社会保険に加入しなければならないケースが多いため、労働時間をセーブして働く方も少なくありません。結果として、企業側は「もっと働いてもらいたいのに時間を増やせない」というジレンマを抱えることになります。

こうした状況を改善し、従業員が希望に応じて柔軟に働ける環境を整えるために、令和7年7月1日から新設されたのが 「キャリアアップ助成金/短時間労働者労働時間延長支援コース」 です。

本記事では、新設されたばかりの「短時間労働者労働時間延長支援コース」について、概要から対象要件、支給額、申請の流れまでを初心者の方にも分かりやすく解説します。読み終えた後には、制度の全体像が理解でき、自社での活用イメージを持つことができるでしょう。ぜひ最後までご覧ください。

目次

「短時間労働者労働時間延長支援コース」とは

キャリアアップ助成金の1つ、「短時間労働者労働時間延長支援コース」とは、パートやアルバイトなど短時間で働く従業員の労働時間を延長したり、賃金を増額したりして、新たに社会保険に加入させる取り組みをおこなった事業主に対して支給される助成金です。

短時間労働者労働時間延長支援コースの目的

短時間労働者労働時間延長支援コースの目的は、

  • 企業にとっては:人材不足の解消や従業員の定着促進につながる
  • 従業員にとっては:従業員の収入増、社会保険加入による安心感が得られる

という、双方にメリットのある仕組みを実現することです。ポイントとなるのは、「年収の壁」で働き方を制限せざるを得なかった従業員が、安心して労働時間を延長できるようになり、企業は安定的に人材を確保できるようになるという点です。

対象となる労働者

短時間労働者労働時間延長支援コースの対象となるのは、以下の要件を全て満たす短時間労働者(有期雇用労働者等)です。

短時間労働者(有期雇用労働者等)の要件
参照:厚生労働省HP キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)のご案内(パンフレット)  001512828.pdf 

要するに、「社会保険加入日の6か月前から継続雇用されていて、今は短時間勤務だが、労働時間を少し増やせば新たに社会保険に加入できる従業員」が対象です。

対象となる事業主

短時間労働者労働時間延長支援コースの対象となるのは、以下の要件を満たす事業主です。

短時間労働者労働時間延長支援コースの対象となる事業主の要件
参照:厚生労働省HP キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)のご案内(パンフレット)  001512828.pdf 

短時間労働者労働時間延長支援コースはいくらもらえる?

助成金を検討するうえで、最も気になるのは「実際にいくらもらえるのか?」という点ではないでしょうか。

短時間労働者労働時間延長支援コースの大きな魅力は、中小企業の場合は最大で60万円の助成が受けられるという手厚さにあります。

では、具体的にどのように助成額が設定されているのかを見ていきましょう。

キャリアアップ助成金 (短時間労働者労働時間延長支援コース)の受給額
参照:厚生労働省HP キャリアアップ助成金 (短時間労働者労働時間延長支援コース)のご案内(リーフレット) 001510960.pdf

つまり、単に労働時間を延ばすだけでなく、給与の引き上げや雇用の安定化につながる取り組みを段階的に進めることで、企業はより大きな助成を受けられる仕組みになっています。
中小企業にとっては、人件費負担を抑えつつ従業員の処遇を改善できるチャンスといえるでしょう。

「短時間労働者労働時間延長支援コース」が新設された背景

この新しいコースは、これまで「106万円の壁」への対応策として設けられていた社会保険適用時処遇改善コースを見直し、さらに「130万円の壁」にも対応できるよう拡充されたものです。背景には、令和7年2月25日に与党3党の合意により、キャリアアップ助成金の仕組みを活用して働き控えをなくす方針が盛り込まれたことがあります。

「106万円の壁」と「130万円の壁」とは?

「年収の壁」とは、パートやアルバイトなど短時間労働者が「扶養から外れないように」「手取り収入が減らないように」と、働き方を調整するきっかけとなる年収ラインを指します。代表的なのが 「106万円の壁」と「130万円の壁」 です。

106万円の壁

従業員数が51人以上の企業で働く、学生以外のパートやアルバイト従業員が、週20時間以上働き月収8.8万円を超えた場合、年収106万円を超えて社会保険加入の対象となる

130万円の壁

配偶者の扶養に入っている場合、年収130万円を超えると配偶者の健康保険・厚生年金の扶養から外れ、自分自身で社会保険に加入する必要がある

いずれの場合も、社会保険料の自己負担が発生するため手取りが減る可能性があります。その結果、多くの短時間労働者が「壁を超えないようにシフトを抑える」働き方を選び、企業側は「もっと働いてほしいのに労働時間を延ばせない」 という人手不足の悪循環に直面していました。

国の狙い

こうした状況を解消するため、政府は「時間労働者労働時間延長支援コース」を令和7年7月1日に新設しました。狙いはシンプルで、次の3点に集約されます。

  • 短時間労働者が労働時間を延長し、社会保険に加入できるようにする
  • 従業員にとっては、 収入の増加・将来の年金や医療保障の安定 を実現する
  • 企業にとっては、 人材の定着や人手不足の緩和 につなげる

つまり、この時間労働者労働時間延長支援コースは単なる経済的な助成ではなく、少子高齢化と人手不足の時代に対応する国の戦略的施策として位置づけられています。政府はこの制度を通じて、企業が主体的に従業員の処遇改善に取り組み、結果として企業と従業員の双方にメリットがある好循環を生み出すことを期待しているのです。

このような経緯を踏まえ、従来の「社会保険適用時処遇改善コース」の労働時間延長メニューを見直し、新たに助成額や要件を強化した制度として「短時間労働者労働時間延長支援コース」は新設されました。

「時間労働者労働時間延長支援コース」を受け取るための3つのステップ

では実際に、「時間労働者労働時間延長支援コース」を受給するためにはどのような手続きが必要なのでしょうか。

「申請が難しそう…」と不安に思う方もいるかもしれませんが、基本的な流れは大きく分けて 3つのステップ です。ポイントを押さえて進めれば、スムーズに申請が可能です。

ステップ1:計画書の作成・提出

最初に、キャリアアップ計画書を作成し、管轄の労働局へ提出します。キャリアアップ計画書には、労働時間延長の対象となる従業員や、取り組みの開始時期などを具体的にを記載します。

*ここがポイント! 計画書は、対象者が社会保険へ加入する日の前日までに提出しなければなりません。提出が遅れると助成金の対象外となるため、早めの準備が欠かせません。

ステップ2:取り組み実施(6か月間)

次に、計画書の内容に沿って対象従業員の労働時間を延長し、社会保険への加入をすすめます。この助成金は、「書類を揃えれば良い」制度ではなく、実際の就労実績が伴っていることが重要です。

*ここがポイント! 延長後の労働時間を6か月間継続して確保することが支給要件です。勤務シフトや契約内容にブレが出ないよう、社内体制を整えておく必要があります。

ステップ3:支給申請

6か月間の取組が完了したら、助成金の支給申請をおこないます。申請時には、賃金台帳や労働契約書、社会保険加入を確認できる書類など、複数の証明書類を揃える必要があります。

*ここがポイント! 支給申請は、支給対象となる期間の賃金を支払った日の翌日から2か月以内 に、支給申請書を提出しなければなりません。提出期限を過ぎてしまうと、原則として助成金は受けられないため、申請時期を見越したスケジュール管理が非常に重要です。

短時間労働者労働時間延長支援コースを活用するメリット

短時間労働者労働時間延長支援コースを活用することで、企業と従業員の双方に大きなメリットが生まれます。これは単なる金銭的支援にとどまらず、労務管理や人材戦略の面でもプラスの効果をもたらします。

労働力確保と人材の定着率の向上

労働時間を延長してもらうことで、人手不足の解消に直結します。さらに、社会保険への加入は従業員に安心感を与え、モチベーションの向上につながります。その結果、離職率が下がり、安定した人材の確保と長期的な定着が期待できます

人件費負担の軽減

労働時間延長に伴い増加する人件費や社会保険料の企業負担分を、キャリアアップ助成金で補填することができます。これにより、過度なコストを抱えることなく、従業員の処遇改善を無理なく実現できます。

企業イメージの向上

従業員の働きやすさや処遇改善に積極的に取り組む企業は、採用市場において好印象を与えることができます。結果として、企業の社会的評価が高まり、優秀な人材の確保や採用力の強化にもつながります

「社会保険適用時処遇改善コース」との違い

「年収の壁」対策として利用できる助成金は、次の2つがあります。両者の違いを理解しておくことが、助成金を有効活用するための大切なポイントです。

今回新設された、短時間労働者労働時間延長支援コースは、従来の社会保険適用時処遇改善コースの労働時間延長メニューを発展・拡充した制度です。主な違いを表にまとめました。

短時間労働者労働時間延長支援コースは、従来の社会保険適用時処遇改善コースの労働時間延長メニューの
主な違い

両方を 併用することはできません が、企業の状況に応じてどちらかを選択できます。「今後は労働時間を延長できそうか」「処遇改善で対応した方がよいか」など、自社の実情に合わせて検討すると良いでしょう。

コース切り替えは可能?

すでに社会保険適用時処遇改善コースで取り組みを開始している企業であっても、要件を満たせば、令和7年7月1日以降は短時間労働者労働時間延長支援コースへ切り替えて申請することが可能です。

ただし、支給申請期間が令和7年6月30日以前に終了している場合は切り替えできず、従来コースでの申請となりますので注意が必要です。

具体的には、次のようなケースで切り替えが認められます。

  • すでに「労働時間延長メニュー」で取り組みを進めている場合
  • 1年目に「手当等支給メニュー」を利用し、2年目以降に「労働時間延長メニュー(1年)」を予定していた場合

このように、企業の取り組み状況によっては柔軟に切り替えが可能です。自社の実態に合わせて、どちらのコースで申請した方が有利かを確認しておくことが重要です。

(参照:厚生労働省HP キャリアアップ助成金 (短時間労働者労働時間延長支援コース)に関するQ&A  001510986.pdf

まとめ

令和7年7月1日に新設された 「短時間労働者労働時間延長支援コース 」は、人手不足や人材確保に悩む中小企業にとって、まさに追い風となる制度です。

「年収の壁」を気にして働き方を制限している従業員を多く抱えている企業にとっては、労働時間延長や社会保険加入を進めやすくする有効な支援策といえます。まずは、この助成金の活用を選択肢に入れて検討してみましょう。

ただし、助成金の申請手続きには細かい要件や期限が定められており、書類の不備や提出の遅れによって支給が認められないケースも少なくありません。

確実に助成金を受給するためには、専門家である 社会保険労務士に相談することが最も安心でスムーズな方法 です。自社の状況に合わせた最適な活用方法を提案してもらえるほか、手続き代行も可能です。ぜひ一度、社労士への相談を検討してみてください。

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