自社の就業規則を改定するときや新しくルールを設けるとき、「この内容は労働基準法と矛盾しないだろうか?」と不安になることは少なくありません。結論から言えば、労働基準法は労働条件の“最低基準”を定める法律であり、就業規則よりも優先されます。つまり、就業規則が労働基準法に反する場合、その部分は無効となり、法律の基準に置き換わることになります。
本記事では、労働基準法と就業規則の優先関係、その他の労使ルールとの位置づけ、そして実務上よく問題となるポイントを、企業経営者と人事担当者向けにわかりやすく解説します。
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労働基準法が就業規則よりも優先されます
労働基準法は労働条件の最低基準を定める法律であり(労基法1条2項)、これを下回る就業規則の規定は効力を持ちません。就業規則の無効になった部分には、労働基準法の基準が適用されることになります。
たとえば、労働基準法4条は性別による賃金差別を禁じています。仮に就業規則で「女性は男性より賃金が低い」といった規定を設けても、その部分は無効となり、法律上の平等な賃金体系が適用されます。企業が「就業規則に書いてあるから大丈夫」と主張しても、法令に反する限り、正当化はできません。
さらに、法律違反の就業規則は無効にとどまらず、罰則の対象となる可能性もあるため、企業には慎重な運用が求められます。
労働基準法以外の法律と就業規則の優先順位
企業の現場では、労働基準法以外にも多くの労働法令が適用されます。労働安全衛生法、最低賃金法、育児介護休業法などがその代表例ですが、これらの法律も就業規則に優先して適用されます。
たとえば、就業規則に育児休業についての規定がなくても、育児介護休業法の条件を満たす労働者から請求があれば、会社は育児休業を認めなければなりません。就業規則に定めがないことを理由に拒否することはできません。
ただし、法律が定めるのはあくまで最低基準であるため、それを上回る制度を就業規則が定めている場合は、就業規則のほうが優先されます。たとえば、会社独自の育児休暇制度を設けるなど、労働者にとってより良い条件であれば適法に運用できます。
その他の労使間のルールの優先順位
企業の労使間のルールは”法律”と”就業規則”以外にも複数存在するため、その優先関係を整理しておくことが重要です。
一般的には次の順序で適用されます。
労働基準法 > 労働協約 > 就業規則 > 個別の労働契約
最も優先されるのは法律です。その次に、労働組合と会社が締結する労働協約が続きます。労働協約には組合員に対して就業規則よりも強い効力が及ぶため、労働条件を直接規律します。
就業規則と個別の労働契約の関係では、原則として就業規則が優先されますが、個別契約の内容が労働者にとって有利である場合には、そちらが優先されます。つまり、労働者に有利な方が適用されるということです。
基本的な用語の整理
優先関係を正しく理解するためには、それぞれのルールの性質を押さえておく必要があります。
労働基準法とは
労働時間、休憩、休日、割増賃金、年次有給休暇など、労働条件の最低基準を定めた法律です。最低基準を下回るルールは無効であり、法律の基準に読み替えられます。
労働協約とは
労働組合と会社が書面で取り交わす契約です。組合員に対しては、就業規則や個別契約よりも優先して適用される強い効力を持っています。
就業規則とは
事業場内の労働条件や服務規律を定めた社内ルールです。常時10人以上の労働者を使用する事業場では作成・届出が義務付けられています。従業員への周知が必要であり、周知されていなければ効力を持ちません。
労働契約とは
個々の労働者と会社が合意した契約です。就業規則を下回る内容は無効ですが、有利な部分は優先して適用されます。
就業規則と労働基準法の優先順位が問題になるケース
実務の現場では、次のようなテーマで労働基準法と就業規則の関係が問題になることがあります。
労働時間
労働基準法は原則として、1日8時間・週40時間を超えて働かせてはならないと定めています(労働基準法第32条)。就業規則でこれを超える定めをしても無効であり、法律の基準に置き換えられます。ただし、36協定が締結されている場合には例外的に時間外労働が認められます。
休憩時間のルール
労働基準法では、労働時間に応じて休憩時間を与える義務があります。6時間を超える勤務には45分、8時間を超える場合には1時間の休憩が必要です(労働基準法第34条)。就業規則でこれより短い休憩時間を定めても、その部分は無効になり、法律の休憩時間が適用されます。
年次有給休暇の取得ルール
原則として、労働者が請求した時季に与えなければならず、正当な理由がなければ会社が拒否することはできません(労働基準法第39条)。就業規則で「有給休暇の取得には事前に会社の承認が必要」といった制限を付けても、その規定は無効となります。
さらに、年10日以上の年休が付与される労働者には「年5日の取得義務」があります。就業規則で独自の運用ルールを設けても、この義務から逃れることはできません。
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まとめ
労働基準法は労働条件の最低基準であり、就業規則に優先して適用されます。企業としては、「就業規則に書いてあるから大丈夫」と考えるのではなく、法令に照らして正しい内容になっているかを常に確認する姿勢が求められます。また、就業規則を適切に作成し、周知し、運用することが、トラブル防止と健全な労使関係の構築につながります。
就業規則の見直しや新規作成を検討されている企業は、自社の実態に合わせつつ、法令遵守を確保した内容に整備することが重要です。必要に応じて専門家へ相談し、リスクのない制度づくりを進めていきましょう。

