パート社員が社会保険に加入したくないという場合でも加入させなければならない?

「扶養から外れたくない」「手取りが減るのは困るので社会保険には入りたくない」。パート・アルバイトの方から、こうした希望を伝えられる場面は少なくありません。

一方で、社会保険の加入は「本人の希望制」ではなく、一定の条件を満たした時点で法律上の「強制加入」になります。企業側が従業員の希望を優先して未加入のままにしてしまうと、遡及しての保険料徴収や罰則のリスクも生じます。

今回は、2025年度時点のルールと、今後予定されている適用拡大の流れを踏まえつつ、

  • どのようなパート社員を社会保険に加入させなければならないのか
  • 未加入のままにすると、企業にどのようなリスクがあるのか

などについて、経営者・人事担当者向けに整理して解説します。

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目次

パート社員が社会保険に加入したくない場合も条件を満たす場合は加入が必須

まず押さえておきたいのは、社会保険は「入りたい人だけ入る」制度ではないという点です。

健康保険・厚生年金保険(いわゆる社会保険)について、法律上の加入条件を満たした従業員は、本人の意思にかかわらず被保険者とならなければならず、事業主は該当する従業員を加入させる義務があります。

従業員が加入条件を満たす場合、事業主は原則として5日以内に「被保険者資格取得届」を日本年金機構へ提出する必要があります。

したがって、パート社員から「社会保険に加入したくない」と言われたとしても、条件を満たしているのであれば、企業としては加入させなければなりません。

2025年度のパート社員の社会保険加入条件

2025年度(令和7年度)時点で、パート社員が社会保険(健康保険・厚生年金)に加入するかどうかを判断する際のポイントは、大きく分けて「4分の3ルール」と「短時間労働者の加入条件」の2つです。

4分の3ルール(フルタイムに近い働き方のパート)

いわゆる「4分の3ルール」とは、正社員と比べて所定労働時間・日数が4分の3以上であれば、パートであっても社会保険の加入が必要になるという基準のことをいいます。

具体的には、同じ事業所の正社員の所定労働時間と日数が、週40時間・月20日勤務だとすると、「週30時間以上」かつ「月15日以上」のパート社員は企業規模や賃金にかかわらず社会保険に加入しなければなりません。

ポイントは、名称が「パート・アルバイト」であっても社会保険の加入については関係がない、という点です。

人事・労務担当者は、雇用契約書に記載された所定労働時間・日数と、実際の勤務実態の両方から判断する必要があります。

短時間労働者の加入条件(いわゆる「106万円の壁」)

4分の3ルールに当てはまらない、短時間勤務のパート社員についても、一定の要件を満たせば社会保険の加入が義務となります。

2025年度時点では、次のような条件をすべて満たす短時間労働者が対象です。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上
  2. 月額賃金が8.8万円以上
  3. 2か月を超えて雇用される見込みがあること
  4. 学生ではないこと(夜間・定時制等の一部を除く)
  5. 社会保険(構成年金)被保険者が51人以上の事業所に勤務していること

いわゆる「106万円の壁」と呼ばれるのは、この上記2の月額8.8万円以上という賃金要件に由来します。(8.8万円×12か月=約106万円)

今後、社会保険の適用範囲は拡大する見通し

上記はあくまで2025年度時点のルールですが、既に決まっている法改正により、今後10年ほどかけてパート社員の社会保険適用範囲はさらに広がっていく予定です。

特に押さえるべきポイントは、「月額8.8万円の賃金要件の撤廃」と「企業規模要件の段階的撤廃」の2つです。

月額8.8万円(年収106万円)の賃金要件が撤廃

2025年に成立した年金制度改正法により、短時間労働者に対する社会保険の加入条件から、「月額賃金8.8万円以上」という賃金要件を撤廃することが決定されています。

今後、全国の最低賃金の状況を見ながら、法律の公布から3年以内を目安に撤廃されるとされており、早ければ2026年10月頃に、現行の「106万円の壁」は撤廃される見込みです。

企業規模の段階的な撤廃

同じ改正の中で、短時間労働者に対する「企業規模要件」も段階的に引き下げ・撤廃されることが決まっています。

現行では「厚生年金の被保険者が51人以上」の事業所で働く短時間労働者が適用対象ですが、

  • 2027年10月:36人以上
  • 2029年10月:21人以上
  • 2032年10月:11人以上
  • 2035年10月:10人以下を含め全事業所が対象

と、10年ほどかけて段階的に適用範囲が広がっていく見通しです。

つまり、最終的には企業規模にかかわらず、「週20時間以上働く非学生のパート従業員」は社会保険の加入対象になることが想定されています。

中小企業の経営者・人事担当者としては、「うちは従業員が少ないから関係ない」と考えるのではなく、早い段階からシミュレーション・準備を進めておくことが重要です。

パート社員を社会保険に加入させないとどうなる?

では、加入条件を満たしているにもかかわらず、パート社員を社会保険に加入させていない場合、企業にはどのようなリスクがあるのでしょうか。

罰則や保険料の遡及徴収

社会保険の加入義務があるにもかかわらず未加入だった場合、悪質なケースでは6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります(健康保険法第208条など)。

また、年金事務所などの調査で未加入が発覚すると、

  • 過去2年間に遡って保険料を徴収される
  • 賞与分を含めて一度に多額の支払いが発生する
  • 既に退職した従業員分は会社が全額負担せざるを得ないケースもある

といったリスクもあります。

行政処分や労使トラブル

社会保険の未加入が悪質と判断されると、業種によっては事業停止や許可取消しなどの行政処分が行われることもあります。その事業者名が行政機関のHP等で公表されれば、採用市場や取引先からの信頼低下につながりかねません。

また、社会保険に加入していなかったことで、従業員が、

  • 病気やケガで働けなくなったときに傷病手当金が受けられない
  • 将来の老齢厚生年金額が減ってしまう

といった不利益が生じる可能性があり、従業員が後になって問題を指摘して、労使トラブルにつながるケースもあり得ます。

パート社員が社会保険に加入するメリット

パート社員が「社会保険に加入したくない」と感じる背景には、手取りの減少や制度のわかりにくさがあります。しかし、社会保険に加入することには、将来の生活やもしものときに備えるうえで大きなメリットがあります。企業としては、この点を丁寧に伝えることで従業員の不安解消につながります。

まず、健康保険に加入することで医療費負担が軽減され、病気やケガで働けなくなった場合には傷病手当金の支給を受けることができます。出産に関する給付も充実しており、家計の急な負担を和らげる効果があります。

次に、厚生年金に加入すると、将来受け取る年金額が増えるだけでなく、障害状態になった場合や死亡した場合にも手厚い保障があります。国民年金だけの場合と比べると、老後や万一の備えが格段に強くなるといえます。

短期的には「手取りが減る」という印象が強いものの、社会保険は長期的に見れば安心を得るための重要な仕組みです。加入のメリットをわかりやすく説明することで、「社会保険に加入したくない」という不安は大きく軽減されます。

まとめ

パート社員の社会保険加入は、本人の希望ではなく、法律の要件を満たした時点で必ず適用される制度です。そのため、従業員が「社会保険に加入したくない」という場合であっても、企業は適切に手続きを進める義務があります。特に、フルタイムの4分の3以上働く場合や、短時間労働者として一定の条件を満たす場合には加入が必須となり、これを怠ると保険料の遡及徴収や罰則、行政処分といったリスクにつながりかねません。

社会保険の加入は、パート社員自身にとっても医療保障や年金給付が手厚くなるなど、将来の安心につながる大きなメリットがあります。企業としては、制度の内容やメリットを丁寧に説明し、不安や誤解を解消しながら納得してもらうことが重要です。

社会保険制度の変化は今後も続く見込みです。最新の情報を踏まえつつ、自社に合った運用方法を考えたい場合には、社会保険労務士に相談することで、より適切な対応が可能になります。

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