アルバイトの社会保険(健康保険・厚生年金)の加入条件は?

「うちはアルバイトばかりだから社会保険は関係ないだろう」と思っていたら、年金事務所から「未加入者がいます」と指摘を受ける——。2024年の社会保険適用拡大以降、こうしたケースが増えています。

社会保険の加入要件は、雇用形態ではなく「働き方」で決まります。とくにアルバイト・パートについては、4分の3ルールと、短時間労働者の加入要件(週20時間以上など)を正しく理解しておくことが、経営者・人事担当者にとって必須といえます。

この記事では、アルバイトの社会保険(健康保険・厚生年金)の加入条件と、加入させない場合のリスク、そしてアルバイト本人にとってのメリットを解説します。

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目次

社会保険とは

まず前提として、「社会保険」という言葉が指す範囲を整理しておきましょう。

広い意味での社会保険には、一般的に次の5つが含まれます。

  • 健康保険
  • 厚生年金保険
  • 介護保険
  • 雇用保険
  • 労災保険

一方、人事や労務の現場で「社会保険」という場合、多くは狭い意味での社会保険を指し、ここには

  • 健康保険
  • 厚生年金保険
  • 介護保険

が含まれます。

このうち介護保険は40歳以上の国民全員が対象であるため、今回は社会保険=健康保険+厚生年金保険として、解説をします。

アルバイトの社会保険(健康保険・厚生年金)の加入条件

結論から先にお伝えすると、アルバイトだからといって社会保険の加入条件が特別に変わったり、軽くなるということはありません。基本的なルールは、正社員、契約社員、パート社員など名称に関わらず同じです。

ポイントとなるのが、次の2つです。

  1. 正社員の「4分の3」以上働いているか(4分の3ルール)
  2. それより短い時間でも、短時間労働者としての加入要件(週20時間以上など)を満たしているか

この2つのどちらかに該当すれば、雇用形態がアルバイトであっても、社会保険(健康保険・厚生年金)の加入対象となります。

4分の3ルールとは

まず、アルバイトの社会保険の加入条件について、基本的な考え方として、4分の3ルールというものがあります。

これは、会社のいわゆるフルタイム社員に対して、

  • 1週間の所定労働時間
  • 1か月の所定労働日数

のそれぞれが「4分の3以上」であれば、その従業員は、社会保険(健康保険・厚生年金)に加入させる必要があります。

例えば、その会社の正社員が1日8時間、1か月20日勤務で働いている場合、アルバイトが1日6時間以上、1カ月15日以上働いている場合、このアルバイトは社会保険の加入対象です。

ここで重要なのは、「アルバイト」「パート」「契約社員」などの呼び名ではなく、実際の所定労働時間・労働日数で判断するという点です。

「短時間労働者」の加入要件(週20時間以上など)

4分の3ルールに満たない、いわゆる短時間のアルバイトについても、一定の条件を満たせば社会保険に加入させる義務があります。

具体的には、次の2段階で考えると整理しやすくなります。

会社側の条件(特定適用事業所かどうか)

短時間労働者を除く厚生年金被保険者が51人以上の事業所は、「特定適用事業所」となり、短時間労働者への適用が義務化されています。

本人側の条件(短時間労働者の要件)

上記の特定適用事業所で働くアルバイトが、次のすべてを満たす場合、社会保険(健康保険・厚生年金)に加入させる必要があります。

  • 週の所定労働時間が20時間以上であること
  • 所定内賃金が月額8万8,000円以上であること
  • 2か月を超えて働く見込みがあること
  • 学生ではないこと(夜間・通信・休学中など、一部は加入対象)

この4つの条件について、人事・労務担当者としては、対象となるアルバイトを洗い出し、加入漏れがないか定期的にチェックすることが求められます。

加入条件を満たすアルバイトを社会保険に加入させないリスク

加入条件を満たしているにもかかわらず、アルバイトを社会保険に加入させていない場合、会社にはさまざまなリスクが生じます。

まず最も直接的なのが、年金事務所による調査・指導です。賃金台帳や出勤簿、雇用契約書などから加入漏れが判明した場合、会社は過去にさかのぼって保険料を納付しなければなりません。費用や調査の手間など、会社には大きな負担が生じます。

さらに、社会保険の適用漏れが悪質と判断された場合、行政指導や罰則(6ヶ月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)を受ける恐れもあります。これらは、コンプライアンス違反として会社のイメージ悪化も避けられません。

また、従業員との関係にも影響します。本来であれば傷病手当金や老齢厚生年金を受けられたはずのアルバイトが、それらを受けられないことに気づいた場合、後に労使トラブルにつながるケースもあります。

経営者・人事担当者としては、社会保険の加入は「コスト」ではなく、法令遵守と人材確保のための最低限の投資と位置付けていただく必要があります。

アルバイトが社会保険に加入するメリットは?

社会保険への加入は、会社にとって義務であると同時に、アルバイト本人にとっても大きなメリットがあります。

健康保険による医療面の安心

アルバイトが健康保険に加入すると、

  • 本人の医療費が原則3割負担になる
  • 高額療養費制度により、医療費が高額になった場合の自己負担が一定額で頭打ちになる
  • 一定の条件のもとで、病気やケガで働けなくなったときに「傷病手当金」を受けられる

など、単なる「医療費の割引」にとどまらない安心が得られます。

厚生年金による将来の年金額アップ

年金制度は、

  • 1階部分:国民年金(基礎年金)
  • 2階部分:厚生年金

という二層構造になっています。厚生年金に加入すれば、この2階部分が上乗せされるため、老後の年金額が大きく増えることになります。

また、厚生年金には老齢年金だけでなく、「障害年金」や「遺族年金」といった保障も含まれており、万が一の場合のセーフティネットとしても重要です。

「手取りが減る」だけではなく、トータルで見るとメリットが大きい

現場でよくあるのが、「社会保険に入ると手取りが減るから嫌だ」という従業員の声です。確かに、社会保険料は会社と本人で折半とはいえ、本人の手取りは一時的に減少します。

しかし、長期的な視点で見ると、

  • 医療費の自己負担軽減
  • 休業時の傷病手当金
  • 老後の年金額増加
  • 万が一の障害・遺族年金

などを含めたトータルの安心感は、保険料負担を上回るメリットがあります。

経営者・人事担当者としては、単に「加入させる・させない」という事務的な話にとどまらず、従業員への説明や理解促進に力を入れることが、結果的に定着率やエンゲージメントの向上につながります。

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まとめ

アルバイトの社会保険(健康保険・厚生年金)の加入条件は、
① 正社員の4分の3以上働いているか、または
② 週20時間以上などの短時間労働者の要件を満たしているか
で判断されます。条件を満たす場合、雇用形態に関係なく加入させる必要があります。

加入漏れは、遡及保険料の負担・罰則・従業員とのトラブルにつながり、企業にとって大きなリスクになります。一方で、医療や年金の保障が厚くなることは、アルバイト本人の安心につながり、定着にも有利に働きます。

自社の勤務実態を定期的に点検し、迷う場合には専門家である社会保険労務士に相談しながら、適正な運用を進めることが重要です。

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