従業員の給与アップに活用できる助成金制度を解説

近年、大企業で初任給の大幅な引き上げが行われるなど、従業員の給与アップが注目を集めています。給与の引き上げは、従業員のモチベーション向上や離職率の低下といった効果が期待できる一方で、企業にとっては大きな負担となる場合も少なくありません。

そこで注目したいのが、賃上げに活用できる各種の助成金制度です。助成金制度は、「給与を上げたいが、コスト面が不安」という企業の方にとって、非常に心強いサポートとなり得ます。

本記事では、従業員の給与アップに役立つ助成金制度について、わかりやすく解説していきます。

目次

従業員の待遇改善は企業の課題

少子高齢化や労働力人口の減少が進む中、企業にとって「人材の確保・定着」は喫緊の課題となっています。そのうえで従業員のモチベーション向上や生産性向上を実現するためには、給与や福利厚生といった「待遇面の改善」が極めて重要な要素となります。

特に中小企業では、人材確保に苦戦しているケースも多く、大企業と同等の条件を提示できないことで採用・定着の競争において不利な状況に置かれがちです。こうした中で、賃金水準の見直しやキャリアアップ支援、人事評価制度の整備など、待遇面の底上げを図ることが、自社の魅力を高め、優秀な人材をつなぎとめるための大きな鍵となります。

給与アップには助成金の活用が効果的

従業員の給与アップのために活用できる、企業向けの制度は数多く存在します。今回はその中でも、特に中小企業にとって使いやすく、直接的な支援となる「助成金」に焦点を当ててご紹介します。

キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)

キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)は、契約社員やパートタイム労働者といった有期雇用労働者に対して基本給の賃金規定を3%以上引き上げ、その新たな規定を実際に適用した場合に、企業へ助成金が支給される制度です。

人材確保や職場定着の観点から、非正規社員の処遇改善がますます求められる中、企業側の経済的負担を軽減しつつ、着実な給与アップを後押しする目的で設けられています。

対象となる事業主は、下記のすべてに該当する事業主となります。

  1. 雇用保険の適用事業所であること
  2. 各事業所ごとに、キャリアアップ管理者を選任していること(他の事業所との兼任、または労働者代表との兼任は不可)
  3. 対象となる労働者について、キャリアアップ計画書を作成し、あらかじめ所轄の労働局へ提出していること
  4. 労働条件、勤務状況、賃金の支給実績などが客観的に確認できる書類を整備していること
  5. 計画期間内に、対象労働者の正社員化または賃金アップなどの処遇改善を実施し、支給要件をすべて満たしていること

以上の条件を満たしたうえで、受給が決定した場合、一人当たりの助成額は以下の通りです。さらに、条件を満たすことにより、助成額が加算されます。

キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)の支給額表
引用:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度版)(パンフレット)

業務改善助成金

業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者が従業員の賃金(事業場内最低賃金)を30円以上引き上げることを条件に、生産性向上のための設備投資や業務改善の取組に対して助成される制度です。

慢性的な人手不足や物価の高騰など、企業を取り巻く経営環境が厳しさを増す中、従業員の処遇改善は避けては通れないテーマです。しかし、給与アップは企業にとって大きな負担にもなりえます。
この助成金は、そうした課題を抱える企業に向けて「賃上げのための投資を国が後押しする仕組み」として設けられており、特に賃金水準が地域最低賃金に近い事業場にとって、非常に心強い制度です。

設備投資の具体例としては、POSレジや券売機といった作業の自動化や効率化を図ることのできる機器や、勤怠管理システム等のITツール・業務支援ソフト、作業工程の見直しに伴うレイアウトの変更や備品の整備などが挙げられます。

このような投資を通じて業務の効率化や生産性の向上を図り、その成果を従業員の賃上げという形で還元することによって、企業と従業員の双方にメリットのある制度設計となっています。

業務改善助成金の対象事業主は、下記の全てに該当する事業主となります。

  1. 中小企業・小規模事業者であること(みなし大企業を除く)
  2. 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること
  3. 解雇や賃金引き下げなどの不交付事由がないこと

また、助成額は下記のとおりです。

業務改善助成金の助成額の表、30円コース、45円コース、60円コース、90円コースとでそれぞれ助成額が異なる
引用:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度版)(パンフレット)

単なる賃上げだけでなく、業務の効率化を通じて持続可能な給与改善を実現できる制度として注目されています。

人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)

人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)は、中小企業をはじめとする事業主が、働きやすい職場環境の整備を通じて従業員の定着を図ることを目的とした助成金制度です。特に、人材の確保が困難な業種においては、従業員の離職を防ぎ、安定した雇用関係を維持することが経営の重要課題となっており、この助成金はその課題解決を後押しする支援策と位置付けられています。

この制度では、事業主が雇用管理制度(例:賃金規定制度、諸手当等制度、教育訓練制度、健康づくり制度など)を新たに導入・運用したり、業務負担を軽減するための設備や機器を導入した場合に、取り組みの実施とその効果に応じて助成金が支給されます。

助成金を受給するための主な要件は、下記の4つとなります。

  1. 雇用保険の適用事業の事業主であること
  2. 雇用管理制度等の計画書の作成と労働局による認定を受けること
  3. 離職率の改善(数値目標の達成)をしていること
  4. 計画に基づく制度や説部の導入・実施をしていること

助成金の支給内容は下記のとおりです。

助成金の支給額は、導入した制度や設備の内容、従業員数、離職率の改善度合いなどに応じて決まります。また、5%以上の賃上げを行い賃金要件を満たした場合には、助成額が加算される仕組みもあり、職場環境の改善とともに従業員の処遇向上にもつながる内容となっています。

人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)の支給額の表。
加算措置を活用すると、最大で187.5万円が支給される。
引用:厚生労働省|雇用管理制度・雇用環境整備助成コースの詳細はこちら

従業員の給与アップに助成金を活用するメリットと注意点

助成金制度は、従業員の給与アップや待遇改善の取組を後押しする強力な支援策ですが、活用にあたっては事前に押さえておくべき注意点も存在します。

まず、助成金には必ず申請期限や提出書類の要件が定められており、それらを正確に把握し、計画的に進めることが求められます。制度によっては計画書の事前提出や、就業規則の改定・届出などが必要となる場合があり、これらを怠ると助成金が不支給となる場合があります。

また、申請内容に虚偽があったり、過去に法令違反がある場合なども、受給対象から除外されることがあります。特に、労働基準法や雇用保険法などといった労働関係法令の違反歴がある企業は、申請前に法令を遵守した体制を整備しておくことが重要です。

さらに、助成金制度は毎年内容が見直されるため、最新情報をこまめに確認することも欠かせません。制度の変更や終了によって、予定していた支援を受けられなくなるリスクを避けるためにも、最新情報を見逃さないよう、申請にあたっては専門家のサポートを受けることも検討すると良いでしょう。

給与アップに活用ができるその他制度

助成金以外にも、従業員の給与アップを後押しする制度として「中小企業向け賃上げ促進税制」があります。

中小企業向け賃上げ促進制度は、前年度より給与等支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除ができる制度です。

雇用者給与等支給額が前年と比較して一定以上増加していることが必須条件となり、さらに教育訓練費の額やくるみん認定などの各種認証制度を取得するなど、追加の取組によって税額控除率が上乗せされる仕組みも用意されています。

まとめ

従業員の給与アップは、企業にとって大きな挑戦であると同時に、将来への投資でもあります。助成金制度をうまく活用することで、コストを抑えながら持続可能な賃上げを実現することが可能です。
各制度の内容を正しく理解し、自社に合った形での申請・運用を心掛けましょう。人材確保と定着、企業の成長を実現するために、助成金の活用は大きな一歩となるはずです。

 助成金活用の際は、SATO社会保険労務士法人まで是非ご連絡ください。助成金申請のプロフェッショナルが、お客様の抱えるお悩みに合った助成金制度をご提案させていただきます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次