近年、国内では少子高齢化や物価上昇の影響を受けていたりと、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。
そのような中、採用難や人材の定着に悩む企業が増加しており、労働市場では「より良い待遇の企業に人材が集まる」という傾向が顕著になりつつあります。これを受け、多くの企業が賃金の引き上げに踏み切り始めています。
とはいえ、中小企業や個人事業主にとって「従業員の賃金の引き上げ」は簡単に決断できるものではありません。
売上が安定していなかったり、社内のコスト増加が重なっているといった理由から、どうしても慎重にならざる得ないのが実情でしょう。
そこで、国や自治体は「賃金の引き上げに取り組む企業」を支援するための助成金制度を用意しています。
本記事では、従業員の賃金を引き上げる際に活用できる主な助成金の種類や、導入に当たっての注意点について、分かりやすく解説していきます。
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賃金引上げに活用できる「助成金制度」
賃金の引き上げにあたりまず課題となるのが「コスト」です。「自社も賃上げをしたいけど、費用面がネックでなかなか踏み切れない」と感じる方は多いのではないでしょうか。そうした企業にとって、ぜひ活用したいのが「助成金制度」です。
助成金とは、厚生労働省や自治体などが実施している、一定の条件を満たすことで企業に支給される支援金のことを指します。返済が無いのが大きな特長で、条件を満たせれば、原則受給することができるのが魅力です。
以下では、賃金の引き上げに活用できるおすすめの助成金制度を3つご紹介いたします。
賃金規定等改定コース(キャリアアップ助成金)
キャリアアップ助成金は、契約社員やパートタイム労働者といった非正規雇用の労働者に対し、正社員化や処遇改善といったキャリアアップの取組を行う企業を支援する制度です。
本助成金には複数のコースがありますが、中でも「賃金規定等改定コース」は、有期雇用労働者等の基本給の賃金規定を3%以上増額改定し、実際の賃金も引き上げた場合に支給される制度で、従業員のモチベーション向上や人材の定着にも効果が期待されます。
支給要件
賃金規定等改定コースでは、下記の①~⑤の条件すべてに当てはまる事業主が対象となります。
- 雇用保険の適用事業所であること
- 事業所ごとに、専任のキャリアアップ管理者を選任していること(複数事業所や労働者代表と兼任はできない)
- 対象労働者に関するキャリアアップ計画書を作成し、事前に所轄の労働局へ提出していること
- 労働条件や勤務実績、賃金の支給状況などを客観的に確認できる書類を整備していること
- 計画期間中に、対象労働者の正社員化や賃金の引き上げなどの改善処理を実施していること
上記の条件を全て満たし、需給が認められた場合には、対象者一人当たりの助成額が支給されます。
さらに、追加要件を満たすことで、助成額の加算も可能です。
助成額
賃金規定等改定コースの助成額は、下記の通りです。
また、従業員の仕事内容や責任の程度、必要なスキルなどを客観的に評価するなど、職務評価の手法を活用して増額改定を実施した場合や、有期雇用労働者等の昇給制度を新たに定めた場合には、それぞれ1事業所あたり20万円(大企業は15万円)の加算措置が行われます。
雇用管理制度・雇用環境整備助成コース(人材確保等支援助成金)
人材確保等支援助成金は、医業が労働環境の改善や雇用管理制度の導入を通じて、従業員の定着率向上や人材確保を図る取組に対して助成される制度です。特に、中小企業や建設業、介護・保育分野など、慢性的な人手不足に直面している業種において、職場の魅力向上を支援することを目的としています。
数あるコースのうち「雇用管理制度・雇用環境整備助成コース」では、従業員の定着や働きやすい職場づくりを目指す企業を支援する制度です。従業員の離職率を下げるための取り組みを行い、実際に成果が出ている企業に対し、費用の一部が助成されます。
この助成金は、制度整備そのものに加えて、賃金の引き上げなど待遇改善を含めた働き方改革を積極的に進める事業主にとって、非常に有効な支援策です。従業員の満足度と企業の持続的成長の両立を目指す取り組みとして、是非活用を検討したい制度となります。
支給要件
雇用管理制度・雇用環境整備助成コースは、主に以下の4つの要件を満たした事業主が対象となります。
- 雇用保険の適用事業所であること
- 雇用管理制度の整備に関する計画が、あらかじめ認定されていること
- 実際に制度の導入や、業務負担を軽減する機器等を導入していること
- 一定期間内で、従業員の離職率が目標を下回っていること
助成額
雇用管理制度・雇用環境整備助成コースの助成額は、下記の通りです。
なお、整備計画の実施期間中に、制度の導入や職場環境の改善と併せて、事前に提出した対象労働者名簿に記載された従業員の毎月の賃金を5%以上引き上げた場合には、助成額が上乗せされる「加算措置」が適用されます。
業務改善助成金
業務改善助成金は、中小企業や小規模事業者が従業員の賃金引き上げを実施するために必要な取組を行った際、その費用の一部を助成する制度です。
具体的には、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げた場合に、その引き上げのために必要だった設備投資や改善活動に係る経費が助成対象となります。
本制度の大きな目的は、「賃金の引き上げ」と「生産性の向上」の両立です。中小企業では、「人件費を上げたいが、利益や生産性に余裕がない」という声が少なくありません。そこで、機械設備の導入や業務フローの整備などのような改善活動を通じて業務の効率を高め、結果として賃上げを可能にする、といった流れを支援するのがこの助成金制度となります。
支給要件
業務改善助成金は、以下の3つの要件をすべて満たしている事業主が対象となります。
- 中小企業または小規模事業者である
- 事業場内の最低賃金と地域別の最低賃金の差額が50円以内となっている
- 解雇や賃金の引下げ等の不交付事由がない
助成額
業務改善助成金の助成額は、下記の通りです。
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従業員の賃上げや人材育成を考える企業にとって、助成金の活用は非常に有効な手段です。しかし、制度の複雑さや申請手続きの煩雑さから、十分に活用できていない企業も少なくありません。
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従業員の賃金を引き上げるメリットは?
人件費を上げることには不安も伴いますが、適切に設計・実施すれば、賃上げは企業にとって多くの好循環をもたらす投資とも言えます。
採用力の向上
他社と比較して魅力的な給与水準を提示できれば、求人への応募者が増えることが期待できます。
特に、若手人材や経験者などを求める企業にとっては、賃金面でのアドバンテージが大きな決め手となるケースも少なくありません。
従業員の定着率アップ
賃上げは、従業員が「この会社で長く働こう」と思える要因のひとつです。給与面での満足度が向上すれば、離職率の低下につながり、結果的に新たな採用や教育にかかるコストを削減することにもなります。また、一定期間ごとに昇給のチャンスがあると従業員に伝えることで、将来に対する安心感やキャリア形成の意識が育ちやすくなります。
従業員のモチベーション向上
適切な賃金の見直しは、「この会社で頑張りたい」「自分は評価されている」といったやりがいや安心感を生み、仕事への意欲を高めることにもつながります。また、「賃金が上がる職場=成長できる職場」というポジティブなイメージを社内外に発信できる点も、企業ブランディングの観点から重要です。
しかしながら、賃上げには「固定費の増加」や「新規入社者と既存従業員との給与バランス」といった課題もあります。
特に、急激な賃上げや一部の人だけを対象とした昇給は、社内に不公平感を生む可能性もあるため、評価制度の整備や賃金テーブルの見直しなどを並行して進めるなど、実際に賃金の引き上げをする際は慎重に検討すべきでしょう。
助成金制度を利用するに当たって注意すべきこと
助成金は原則返済不要であり、企業にとって非常に魅力的な支援制度ですが、申請には一定の手続きと事前準備が必要です。利用を検討する場合は、以下の点に注意しましょう。
事前の計画提出が必要なケースが多い
多くの助成金では、対象となる取組みを実施する前に「計画書」や「申請書類」を労働局などへ提出し、事前に認定を受ける必要があります。後からの申請は対象外となってしまう場合があるため、余裕を持ったスケジュールで取り組みましょう。
書類の整備・保管が必要
取組実績を報告する際は、賃金台帳や労働条件通知書、就業規則などの提出が求められます。日頃から労務管理を適切に行い、証拠書類を整備しておくことで、スムーズな申請が可能となります。
制度内容の変更に注意
助成金制度は毎年見直しが行われており、申請要件や支給額が変更されることがあります。助成金の情報は常に確認の上、最新の内容で申請ができているかどうかをチェックする必要があります。
申請内容に不備がある場合、助成金は不支給となってしまいます。正しい内容で申請ができるか不安な場合は、社会保険労務士や専門機関のサポートを受けるのも有効です。
まとめ
企業が人材確保・定着に本気で取り組む時代において、「賃金の引き上げ」は持続的な経営のための戦略的手段と言えます。
とはいえ、急なコスト増加は経営に影響を及ぼす可能性があるため、助成金制度を上手に活用することで、無理のない形で賃上げを実現することが可能となります。
今回ご紹介した制度の多くは、いずれも中小企業や小規模事業者の利用を前提に設計されており、条件さえ満たせば大きな支援が期待できます。
これを機に、自社の労務環境や給与制度を見直しながら、従業員にも企業にもメリットのある賃上げ施策を検討してみてはいかがでしょうか。
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