令和7年版|社会保険の加入条件をわかりやすく解説【担当者向け】

社会保険は、従業員の生活や健康を守るための重要な制度です。しかし、その加入条件は雇用形態や勤務状況によって異なり、また、年々の法改正により複雑化しています。

人事・労務の担当者としては、「誰がいつから加入すべきか」を正しく判断し、適切に手続きを進めることが求められます。誤った取り扱いは、法令違反や労使トラブルに発展しかねません。

本記事では、健康保険と厚生年金保険の加入条件を中心に、正社員からパート・アルバイトまで含めてわかりやすく解説します。

目次

社会保険の種類と対象(それぞれの制度の目的と注意点)

「社会保険」と一括りにされることが多いですが、実際には複数の制度が組み合わさって構成されています。それぞれの制度には異なる目的と対象があり、正しく理解しておくことが重要です。

代表的な社会保険制度は以下の4つです。

健康保険

病気やけが、出産、死亡といった生活上のリスクに備える制度です。保険証を使って医療機関で受診したり、出産手当金・傷病手当金といった生活を保障するための給付を受けることができます。

企業で働く従業員が加入するのは、「協会けんぽ」または「健康保険組合(組合健保)」です。事業規模や業種、従業員数によって加入先が異なります。加入先がどちらかによって、手続きが異なるケースがあるので、各担当者は自社がどちらに加入しているのか、把握しておくことが重要です。

厚生年金保険

老後の年金や、障害・死亡時の遺族年金などを支給する制度です。国民年金(基礎年金)の上乗せとして給付されるため、将来受け取る年金額を増やす役割を担っています。

企業に勤める被用者は、国民年金に加えてこの厚生年金保険に加入します。保険料は給与・賞与に応じて計算され、従業員と事業主が折半で負担します。

雇用保険(労働保険)

失業した場合や育児・介護などで働けなくなった場合に生活や再就職を支援する制度です。基本手当(いわゆる失業手当)や育児休業給付、教育訓練給付などが含まれます。

週20時間以上働き、31日以上雇用される見込みの従業員は、原則としてこの制度の対象になります。社会保険とは管轄が異なり、公共職業安定所(ハローワーク)によって管理されています。

労災保険(労働保険)

業務中や通勤中のけが・病気・死亡などに対して補償を行う制度です。基本的に、すべての労働者が対象であり、保険料は全額事業主が負担します。

パートやアルバイト、外国人労働者でも、雇用形態を問わず原則的に全員が適用対象となります。

注意点:社会保険の分類について】

これら4つの制度は、まとめて「社会保険(広義)」と呼ばれることもありますが、実務上は次のように分類されるのが一般的です。

  • 健康保険・厚生年金保険 → 「(狭義の)社会保険
  • 雇用保険・労災保険 → 「労働保険

このように、呼び方や分類が混在しているため、混同しやすい点には注意が必要です。

本記事では、「健康保険」「厚生年金保険」=狭義の社会保険について、加入条件を中心に詳しく解説します。

なお、雇用保険・労災保険(労働保険)については、管轄が異なり、対象者の基準や手続きも違うため、別途の解説を予定しています。

従業員の社会保険の加入条件

企業で働く従業員は、次のいずれかの条件に該当する場合、健康保険および厚生年金保険(いわゆる社会保険)への加入が義務付けられます。

  • 常時雇用されている従業員であること
  • 週の所定労働時間および所定労働日数が、正社員の4分の3以上であること

「常時雇用されている従業員」とは?

「常時雇用」とは、長期的・継続的に雇用されている、またはその見込みがある状態を指します。具体的には、以下のようなケースが該当します。

  • 雇用契約に期間の定めがない(無期雇用)
  • 有期契約であっても、過去1年以上継続して雇用されている
  • または、雇用時点で1年以上の継続雇用が見込まれる

このため、「正社員」であるかどうかにかかわらず、契約社員・嘱託社員・フルタイムのアルバイトなども、実態によっては常時雇用者とみなされる場合があります。つまり、雇用形態の名称にとらわれず、労働時間・日数・契約内容の実態に基づいて判断することが重要です。

パート・アルバイトの社会保険の加入条件(4分の3基準)

「常時雇用されている従業員」に該当しないパートタイマーやアルバイトであっても、以下の2つの要件をともに満たす場合は、社会保険への加入義務が発生します。

  • 週の所定労働時間が、正社員の4分の3以上であること
  • 週の所定労働日数が、正社員の4分の3以上であること

たとえば、正社員が「週40時間勤務・週5日出勤」の会社であれば、週30時間以上かつ週4日以上勤務する従業員は、加入条件を満たすことになります。

短時間労働者の社会保険加入条件

労働時間・日数が正社員の4分の3未満であっても、以下のすべての条件を満たす場合は、短時間労働者として社会保険の加入が必要です。これは、近年の法改正により段階的に適用範囲が拡大されている点に注意が必要です。

【短時間労働者の加入要件】

  1. 週の所定労働時間が20時間以上
  2. 月額賃金が88,000円以上(年収換算 約106万円以上 ※撤廃される見通し)
  3. 2か月を超える雇用見込みがあること
  4. 学生ではないこと(※定時制・通信制などは対象となる場合あり)
  5. 勤務先企業の従業員数が常時51人以上 ※令和9年10月1日以降は、段階的に廃止予定

これらすべてを満たした場合は、労働時間・日数が正社員の4分の3未満でも、社会保険に加入させる必要があります。

あわせて読みたい
令和9年から社会保険加入条件が変更、50人以下の場合も加入対象に 2025年5月16日、厚生労働省は「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」を国会に提出しました。この法改正案には...

雇用形態ではなく「実態」で判断する

いずれのケースも重要なのは、名称や肩書きでなく、実際の勤務実態に基づいて判断することです。

  • 契約社員、パート、嘱託、アルバイトなどであっても、要件を満たしていれば加入義務が生じます。
  • 逆に、「正社員」という名称であっても、労働時間が極端に短いなど、上記の要件に該当しない場合は社会保険の加入対象外になることもあります。

判断に迷う場合は、年金事務所や社会保険労務士への確認をおすすめします。加入漏れがあった場合、遡っての手続きや保険料の徴収が必要となる可能性があるため、慎重な対応が大切です。

社会保険の加入手続きの流れ

従業員が社会保険の加入条件を満たした場合、事業主には速やかに加入手続きを行う義務があります。通常、手続きは以下の流れで行います。

まず、従業員の採用が決まった時点で、「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を作成し、原則として5日以内に届出を行います。提出先は、事業所を管轄する年金事務所または年金事務センターです。提出方法は、電子申請・郵送・窓口持参のいずれでも可能で、通常は添付書類は不要です。ただし、被扶養者がいる場合は、「被扶養者(異動)届」の提出が必要になります。

手続きが遅れたり、加入漏れが発生した場合には、過去にさかのぼって保険料を徴収されるだけでなく、加算金などのペナルティが課される可能性もあります。確実に手続きを行うためにも、制度や提出先の最新情報を確認しながら、必要に応じて社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。

社会保険の加入条件に関するよくある質問(FAQ)

試用期間中は社会保険に加入させなくてもいい?

誤りです。

社会保険は、採用日からの加入が原則です。たとえ試用期間中であっても、加入条件を満たしていれば加入させる必要があります。

学生アルバイトでも社会保険の加入対象になりますか?

原則として対象外ですが、例外もあります。

通常、学生は短時間労働者の適用除外とされますが、定時制や通信制の学生などは対象となる場合があります。 労働条件と学籍の実態に応じて判断が必要です。

複数の会社で働いている人(ダブルワーク)の場合はどうなりますか?

各事業所ごとに加入条件を満たしているかを個別に判断します。

もし、複数の事業所で同時に加入条件を満たす場合は、本人が「主たる事業所」を選び、その事業所で社会保険に加入します。選定の際は、被保険者が「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を日本年金機構へ提出する必要します。

1〜2カ月の短期雇用でも、社会保険に加入する必要がありますか?

原則として「2カ月以内の雇用契約」は加入対象外ですが、契約延長の見込みがある場合や、実際に繰り返し更新された場合には、当初から加入が必要と判断される可能性があります。加入対象かどうかは、雇用契約の内容と実態をもとに総合的に判断されますので、注意が必要です。

 

まとめ

社会保険の加入条件は、「正社員かパートか」などの雇用形態だけで判断されるものではありません。 実際には、労働時間・労働日数・賃金・雇用期間などの実態によって判断されるため、名称や契約書上の区分にとらわれず、個々の勤務状況を正しく把握することが重要です。

原則として、正社員については採用日から社会保険に加入させる義務があります。また、パートやアルバイトであっても、所定の労働時間・日数が一定の基準を超える場合や、短時間労働者の要件を満たす場合には、加入対象として扱わなければなりません。

さらに、近年の法改正により、短時間労働者に対する社会保険の適用範囲が拡大されていることに注意が必要です。これにより、これまで対象外だった中小企業・小規模事業所でも、新たに加入義務が発生するケースが増えることが予想されます。

加入漏れや手続きの遅れがあった場合、保険料を過去にさかのぼって徴収される可能性があり、最終的な責任は事業主にあります。また、労使トラブルにつながる可能性もあるため、こうしたリスクを避けるためにも適切な管理体制の整備が不可欠です。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次