月45時間残業が年6回を超えるとどうなる?(担当者向け)

働き方改革関連法の施行から数年が経ち、「残業の上限は月100時間未満」というフレーズだけが一人歩きしている場面をよく見かけます。しかし、実務で見落とされがちな重要ポイントの1つが「月45時間を超える残業は、年6か月まで」というルールです。

このルールを正しく理解していないと、「特別条項を付けているから大丈夫だろう」と思って運用しているうちに、気が付いたら法令違反になっていた、という事態になりかねません。

本記事では、企業の経営者・人事労務担当者の方向けに、「月45時間・年6か月まで」の意味や、年6回を超えてしまったときのリスクなどをわかりやすく解説します。


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目次

時間外労働の上限規制の全体像を整理する

まずは、法律でどのような上限が定められているのかを、全体像から押さえておきましょう。

法定労働時間と時間外労働

労働基準法では、原則として「1日8時間・1週40時間」を法定労働時間と定めています。これを超えて働いてもらう時間が、いわゆる時間外労働(法定時間外労働)です。また、毎週1日以上、または4週間を通じて4日以上の「法定休日」を与えることも義務付けられており、その日に働いてもらうのが休日労働(法定休日労働)です。

この「法定」を超える部分を認めてもらうために必要なのが、いわゆる36(サブロク)協定です。36協定を締結し、労基署に届出をしていなければ、時間外・休日労働は原則としてさせることができません。

原則の上限:月45時間・年360時間

36協定を締結・届出していたとしても、無制限に労働させることができるわけではありません。労働基準法では、原則として月45時間・年360時間が上限として定められています。

臨時的な特別の事情がなければ、この上限を超えることはできません。

特別条項を付けた場合の上限

繁忙期など「臨時的な特別の事情」があり、労使が合意した場合には、特別条項付き36協定を結ぶことで、月45時間・年360時間を超える時間外労働も可能になります。

ただし、この場合でも次の上限を超えることはできません。

  • 時間外労働(休日労働を含まない):年720時間以内
  • 時間外労働+休日労働:
    • 1か月あたり100時間未満
    • 2〜6か月平均で80時間以内
  • そして時間外労働が月45時間を超えられるのは、年6か月まで

この最後の「年6か月まで」という条件が、本記事のテーマです。

「月45時間・年6回まで」とは何を指すのか

カウントされるのは「法定時間外労働」

ここで重要なのは、これまで説明した36協定で認められる労働時間の「月45時間」というのは法定時間外労働の時間だという点です。

企業によっては、就業規則上の所定労働時間が「1日7時間30分」など、法定労働時間より短く設定されています。この場合、次の2つを区別する必要があります。

  • 所定労働時間を超えた時間(いわゆる「残業」)
  • 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた時間(法定時間外)

36協定の上限規制の対象となるのは後者です。勤怠システム上の「残業時間」の表示だけを見ていると、法定時間外と一致していないケースもあるため注意が必要です。

「年6回まで」は人ごとに見る

「月45時間を超えることができるのは年6か月まで」というルールは、事業場単位ではなく、労働者ごとに判断します。

ある社員について、1年間(36協定で定めた期間)を振り返ったときに、

  • 「その人の法定時間外労働が45時間を超えた月」が
  • 7か月以上あれば、その時点で法令違反

となります。

特別条項付きの36協定を結んでいたとしても、「7か月目の45時間超」が発生した時点で違反となる点が、実務上のポイントです。

具体例でイメージする

例えば、Aさんの1年間の法定時間外労働が次のようだったとします。

  • 4月:30時間
  • 5月:60時間
  • 6月:70時間
  • 7月:50時間
  • 8月:55時間
  • 9月:48時間
  • 10月:52時間

この場合、45時間を超えた月は5~10月の6か月分です。ここまではギリギリセーフですが、もし11月にも45時間を超える時間外労働が発生していれば、「7回目」が生じ、上限規制違反となります。

実務では、「今月は45時間を超えるかどうか」だけでなく、「直近1年間で45時間超の月が何回あるか」を継続的に把握することが求められます。

月45時間残業が年6回を超えるとどうなる?

では、実際に月45時間残業が年6回を超えてしまった場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。

労基法違反としての行政・刑事リスク

月45時間超えの月が年7か月以上ある状態は、労働基準法が定める時間外労働の上限に違反している状態です。そのため、労基署による行政指導・是正勧告、悪質と判断された場合は送検されるリスクがあります。

罰則は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金です(会社だけでなく、実際に指揮命令をしていた管理者等が対象になることもあります。労働基準法第119条)。

過重労働による安全配慮義務違反のリスク

長時間労働が続くことで、脳・心臓疾患やメンタルヘルス不調など、従業員の健康被害につながるおそれも高まります。

時間外・休日労働時間が「月100時間前後」や「複数月で平均80時間」に達すると、過労死・過労自殺の労災認定において業務との関連性が強いとされる基準に近づきます。

万一、従業員が倒れたり、自殺に至った場合、会社側が労働時間管理や負荷軽減に十分な配慮をしていなかったと判断されれば、安全配慮義務違反による損害賠償責任を問われることもあります。

人材確保や企業への信頼に対する影響

法令違反や長時間労働に関する情報は、昨今ではSNS等を通じて瞬時に広がります。

  • 採用が難しくなる
  • 既存社員の離職が加速する
  • 取引先や顧客からの信頼が低下する

など、経営にとって無視できないダメージにつながる可能性があります。

特別条項付き36協定に関する実務でよくある勘違い

次に、実務の現場で見かける「危ない勘違い」を整理しておきます。

「月100時間未満なら大丈夫」と思ってしまう

特別条項付き36協定の説明として、「時間外+休日労働が月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内」という数字が有名になりました。

そのため、「100時間さえ超えなければ違反にはならない」と誤解されがちですが、これは誤りです。

  • 月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内
  • 年720時間以内
  • 月45時間超は年6回まで

の3つをすべて満たさないといけないため、45時間超の月が7回以上あれば、その時点で違反となる点に注意しましょう。

特別条項を結んでいれば上限は事実上ない?

かつては、特別条項付き36協定を結ぶことで、実質的に上限のない長時間残業が可能になっていました。

しかし改正法により、特別条項を付けていても、

  • 年720時間
  • 月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内
  • 月45時間超は年6回まで

という「絶対の上限」が設けられました。今は「特別条項=何でもアリ」という時代ではありません。

45時間残業の年6回超えを防ぐため担当者が押さえるべきポイント

では、自社において「月45時間の残業が年6回を超えているかどうか」が問題になっている場合、担当者としては何から着手すべきでしょうか。

労働時間の実態を把握する

第一歩は、「自社の現状を正しく知ること」です。

  • 勤怠データから、各社員の法定時間外労働・休日労働を算出する
  • 直近12か月分をさかのぼって、月45時間超の回数、時間外+休日労働の月ごとの合計、2〜6か月平均80時間を超える期間がないか、をチェックする。

こうすることで、「どの部署・どの職種で、どの程度のリスクがあるのか」が見えてきます。

36協定の内容と運用の見直し

次に、36協定の内容が法令の各要件を満たしているかを確認します。

  • 原則の上限(45時間・360時間)が明記されているか
  • 特別条項付き協定の場合であれば、
    • 「臨時的な特別の事情」の内容が、具体的かつ限定的に書かれているか
    • 年720時間・月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内・45時間超は年6回まで
      といった要件が協定上も担保されているか
    • 45時間超のときの健康確保措置(医師面接、インターバル、休暇付与など)が定められているか

単に書面を整えるだけでなく、現場でそのとおりに運用できるかという点が重要です。現実的に守れない協定は、結果的に違反を招きます。

業務量の調整と働き方の見直し

3つ目は、根本的な対策として、業務量の調整と働き方の見直しが欠かせません。

  • 繁忙期の人員増強(派遣・アルバイトの活用など)
  • 権限移譲やITツールの導入による生産性向上
  • 在宅勤務やスライド勤務など、多様な働き方の導入

経営トップが方針を示し、人事・現場管理職・従業員が一体となって、業務プロセスそのものを見直していくことが求められます。

社労士に相談するメリット

時間外労働の上限規制は、条文だけ読んでも分かりづらく、

  • 自社の就業規則やシフト制との関係
  • 管理監督者やみなし労働時間制の扱い
  • 建設業や運送業など、猶予・除外規定が絡むケース

など、個別事情によって判断が変わる部分も多くあります。

自社だけで判断せず、社会保険労務士に相談することで、

  • 自社の業種・規模に合った36協定や就業規則の整備
  • 勤怠システムの設定方法のアドバイス
  • 労基署対応や是正勧告への実務的なサポート

など、実態に即した運用設計がしやすくなります。

もし、36協定や就業規則の作成や見直しなどでお困りのようなら、ぜひSATO社会保険労務士法人にお気軽にご相談ください。


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まとめ

時間外労働について、改めてポイントを整理すると、

  • 時間外労働の原則上限は「月45時間・年360時間」
  • 特別条項を付けても、
    • 年720時間
    • 月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内
    • 月45時間超は年6回まで
      の3条件をすべて守る必要がある
  • 年6回を超えると、法令違反として行政指導・送検・企業イメージ悪化などのリスクが高まる
  • 担当者は、法定時間外で集計し、1人ひとりの「45時間超の回数」を常にモニタリングすることが重要

という点が押さえるべき核心です。

経営者・人事労務担当者・現場管理職が共通認識として、「45時間を超える残業は、年6回までがギリギリのライン」という感覚を持ち、無理のない業務体制を一緒につくっていくことが、これからの企業経営に欠かせません。

自社の状況に照らした具体的な見直しについては、ぜひ専門家にも相談しながら、法令遵守と従業員の健康確保の両立を図っていきましょう。


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