令和7年5月16日、政府は年金制度改正法案を閣議決定し、国会へ提出しました。この法案には、短時間労働者への社会保険適用の拡大、在職老齢年金制度や遺族年金の見直しなど、働き方やライフスタイルの多様化、老後の生活の安定等を反映した内容が盛り込まれています。
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短時間労働者に対する社会保険の適用拡大
今回の改正法案では、短時間労働者が社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入するための要件のいくつかが撤廃され、より加入しやすくするための措置が講じられています。
短時間労働者の賃金要件・企業規模要件を撤廃
これまで短時間労働者が社会保険に加入するためには、下記の要件をすべて満たす必要がありました。
- 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 学生でないこと
- 特定適用事業所(被保険者数51人以上の企業)で勤務していること
今回の年金制度改正法案では、このうち(1)の賃金要件が撤廃され、(4)の企業規模要件についても令和9年10月1日から令和17年10月1日までの間に段階的に廃止される予定です。
これまで、短時間労働者が一定時間以上働くと、社会保険料の負担が増え、かえって手取り額が減少してしまう、いわゆる「年収106万円の壁」が社会的に問題視されてきました。
今回の改正では、この賃金要件が撤廃されるとともに、企業規模要件についても段階的に廃止される予定です。政府は賃金要件の撤廃により、労働者は年収を気にすることなく働くことが可能になり、社会保険への加入を通じて将来の年金受給額も増加するとしています。

施行日について、(4)の企業規模要件の撤廃は令和9年10月1日から令和17年10月1日までの間に段階的に実施され、(1)の賃金要件の撤廃は公布から3年以内に政令で定める日から施行される予定です。
社会保険の非適用業種の解消
現行制度では、常時5人以上を雇用している個人事業所であっても、下記の一部の業種については、実態把握の困難さなどを理由に社会保険の適用対象外とされています。
- 農業・林業・漁業など第一次産業
- 旅館や飲食店、映画館などの接客娯楽業
- 寺院や神舎などの宗教業
今回の改正案では、こうした非適用業種が解消され、常時5人以上を雇用するすべての業種が社会保険の適用対象とされます。施行日は令和11年10月1日とされていますが、既存の事業所については経過措置として、当面の間は現行の適用除外が継続される見込みです。
保険料負担割合の変更と事業者への支援
社会保険の適用拡大により、これまで社会保険の対象外だった短時間労働者についても保険料の負担が発生することになります。この負担を軽減するために、改正案では保険料の負担割合を一時的に見直す措置が盛り込まれています。
具体的には、制度施行から3年間に限り、労働者の標準報酬月額に応じて保険料負担割合を軽減することが可能になる経過措置が設けられます。

一方、事業者側に対する支援策としては、労働時間の延長や賃金の引き上げなど、労働者の収入増に取り組んだ企業に対して、キャリアアップ助成金を通じた経済的支援が提供される予定です。
この制度の施行予定日は令和8年10月1日とされており、企業には早期の準備と対応が求められます。
その他の改正内容
今回の年金制度改正法案には、社会保険の適用拡大以外にもさまざまな制度見直しが含まれています。
まず、在職老齢年金制度の見直しが挙げられます。具体的には支給停止基準額が現行の50万円から62万円まで引き上げられ、できるだけ就業調整が起こらない方向へ見直される予定です。
また、遺族厚生年金についても、男女間の不公平を是正するため、18歳未満の子のない20~50代の配偶者を原則5年の有期給付の対象とし、60歳未満の男性を新たに支給対象とする等の見直しが行われます。
そのほか、厚生年金保険等の標準報酬月額の上限が段階的に引き上げられるほか、私的年金制度の整備も検討されています。老齢厚生年金の配偶者加給年金の額についても見直しが盛り込まれており、制度全体として公平性と持続可能性の向上が目指されています。
社内規定の整備はお早めに
年金制度改正法案により、社会保険の適用拡大をはじめとして、企業実務に関わるさまざまな制度変更が予想されます。そのため、企業においては、就業規則や36協定、労働契約書などの社内規定についても早期に見直し・整備を進める必要があります。
制度の施行に合わせて社内のルールが整っていないと、従業員とのトラブルや行政対応の遅れにつながる可能性があるため、可能な限り早めに対応を開始することが重要です。
もし、自社での対応が難しいと感じる場合は、専門家の力を借りることも一つの手段です。SATO社会保険労務士法人では、中小企業から従業員1万人を超える大企業まで、全国の企業を対象に社内規定の作成・見直しのサポートを行っています。
制度対応に不安がある企業の方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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まとめ
令和7年5月に閣議決定された年金制度改正法案は、短時間労働者の社会保険適用拡大をはじめとした大きな制度の変更が含まれており、今後の人事・労務管理に大きな影響を及ぼすことが予想されます。
特に企業の人事担当者にとっては、施行時期や対象範囲、助成金制度などの詳細を早期に把握し、制度施行に向けた社内体制の整備や従業員への周知が重要になります。今後の国会審議や詳細な省令や通達等の発表に注目しつつ、対応を進めていくことが求められます。
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