近年、価値観の多様化に伴い、法律上の婚姻届を提出しない「事実婚」の形を選ぶ家庭も増えてきています。事実婚は、法的な婚姻手続きを行っていないものの、実質的に夫婦として共同生活を営んでいる関係のことをいいます。
企業の人事担当者様においては、事実婚の従業員に対しても、適切に社会保険の手続きを行うことが求められます。とくに、事実婚のカップルに子どもが生まれた場合、社会保険上の扶養手続きにおいては注意すべきポイントがいくつか存在します。
今回は、事実婚における子どもの扶養追加の取り扱いについて、実務対応の留意点をご説明します。
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社会保険上の事実婚の扱いについて
まず、法律婚の夫婦が共に健康保険の被保険者である場合、子どもは原則として年間収入が多い親の被扶養者となります。ただし、両親の年間収入の差が1割以内であれば、届出によって「主として生計を維持している方」の被扶養者とすることも可能です。
この原則は、事実婚の家庭にも当てはまります。社会保険においては、事実婚であっても、実態として婚姻関係に準ずる共同生活が確認できれば、法律婚と同様の取り扱いが可能です。したがって、事実婚の配偶者も、要件を満たせば健康保険や厚生年金の被扶養者となることができます。
ただし、これが子どもの扶養追加となると、もう一段の注意が必要になります。
事実婚の場合の子どもの扶養追加について
子どもと母親との関係は、出産によって自動的に法律上の親子関係が成立します。そのため、母親が被保険者である場合は、特段の手続き上の障壁は少なく、通常どおり扶養に追加することが可能です。
一方で、事実婚における父親と子どもとの間には、父親が認知の手続きを行わない限り、法律上の親子関係は成立しません。このため、たとえ父親の方が高収入であっても、認知がない場合には、その子どもを父親の扶養に入れることは基本的にできません。その場合、子どもは母親の扶養に入ることになります。
このように、事実婚における子どもの扶養手続きでは、「認知の有無」が重要な判断ポイントとなります。
また、扶養に追加する際の提出書類や具体的な運用については、協会けんぽや各健康保険組合ごとに異なる場合があります。ある健保組合では、「認知をしていないことの申立書」や「出生届の写し」などの提出を求めるケースもあります。したがって、扶養手続きに入る前に、必ず管轄の健保へ確認を取ることが推奨されます。
まとめ
事実婚であっても、社会保険上は法律婚と同等の取り扱いが可能であり、扶養手続きも基本的には同様の流れで行われます。しかし、子どもを扶養に追加する場合には、**父親と子どもの間に法的な親子関係があるかどうか(=認知の有無)が重要な判断材料となります。
人事担当者としては、従業員から扶養追加の申出があった際には、形式的な家族構成だけでなく、戸籍関係や認知状況を丁寧に確認し、健保組合の運用ルールに従った対応を行うことが求められます。誤った処理をすると後日トラブルにつながる可能性もあるため、慎重かつ丁寧なヒアリングと事前確認が重要です。
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