遺族補償年金の支給要件について、夫婦の差異解消に向けた議論

2025年6月18日、「労災保険制度の在り方に関する研究会」において、遺族補償年金における夫婦間の支給要件の違いに関する見直しや、農業などの暫定任意適用事業の強制適用に向けた議論が行われました。

「労災保険制度の在り方に関する研究会」は、労災保険制度が抱える現代的な課題を包括的に検討するために設置された厚生労働省の有識者会議(研究会)です。

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遺族補償年金の夫婦の差異を解消へ

現在の労災保険制度では、被災労働者の配偶者が遺族補償年金を受給するには、男女で異なる要件が設けられています。妻については年齢を問わず受給可能である一方、夫の場合は55歳以上でなければ支給要件を満たしません。

この支給要件の違いは、かつて専業主婦世帯が一般的だった時代背景に基づき、「夫が亡くなった場合、妻が単独で生計を維持するのは困難である」という前提に立って設けられたものです。しかし、近年では共働き世帯の増加や男女間の賃金格差の縮小など、夫婦を取り巻く経済的・社会的環境は大きく変化しています。

こうした状況を受けて、研究会では「夫婦で異なる支給要件を設ける正当性は既に失われており、この格差は解消すべきである」との点で意見が一致しました。ただし、要件の見直し方法については、以下のように複数の意見が示されています。

  • 男女ともに年齢要件を撤廃すべきという意見
  • 妻に対して設けられた優遇措置(年齢要件なし)を見直し、夫と同様に55歳以上とすべきという意見
  • 制度趣旨(扶養利益の補填や生活保障)を考慮しつつ慎重に検討すべきという意見

暫定任意適用事業も強制適用すべき

現在、労災保険は原則として、労働者を1人でも雇用していれば、すべて適用事業所にあたります。しかし、農業や林業といった一部の個人経営事業所(常時労働者が5人未満)については、労働実態の把握が困難であるという理由から、労災保険の加入が任意となる「暫定任意適用事業」とされています。

この点についても、研究会では見直しの議論が進みました。近年の農業では、労使慣行も変化し、労働実態は都市部の他業種と大きく変わらなくなっているとされます。また、労働実態を把握するための手段もICTなどにより多様化しています。

一部では、「農林水産業を強制適用としない根拠は乏しい。」との意見が挙がりました。一方で、「全面的な強制適用には依然として課題が残る」との慎重論もありました。

中小企業の経営者にとっては、将来的に制度変更が義務化につながる可能性があるため、今後の動向を注視する必要があります。

まとめ

今回の研究会では、他にも以下のような多岐にわたる議論が行われました。

  • フリーランスや家事使用人を労災保険の適用範囲とするかどうか
  • 労災保険給付の消滅時効の見直し
  • メリット制の効果検証 など

将来的な制度改正に備え、今から情報を把握し、必要な対応を検討することが重要です。

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