2022年に政府が、個人のリスキリング支援に5年間で1兆円を投じる方針を示して以来、多くの企業において学習環境の整備や制度の構築が進められています。そして、この動きは今後ますます活発化するものと予想されます。
本記事では、リスキリングについて解説し、企業が従業員のリスキリング支援を進める上で活用できる5つの補助金・助成金をご紹介します。これらの補助金や助成金を上手に活用して、自社の従業員のリスキリング支援を推進しましょう。
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リスキリングとは
最近、よくニュースや新聞などでも話題になっている「リスキリング」。そもそもリスキリングとはいったいどのようなことを指すのでしょうか?また、なぜ最近急に取り上げられるようになったのでしょうか?
「何となく聞いたことはあるけど、正確な意味はわからない」という方も多いかと思います。そこで、まずはリスキリングの意味や、リスキリング支援の背景などを解説したいと思います。
リスキリングの意味
リスキリングとは、急速に変化する労働市場や技術革新に対応するために、新たな知識やスキルを学ぶ取り組みのことです。
経済産業省では、「新しい職業に就くため、または今の職業で必要とされるスキルが大きく変化する場合に、そのスキルを獲得する・させること」と定義されています。
人工知能(AI)やデジタルトランスフォーメーション(DX)といった技術の進展、さらに新型コロナウイルスの影響による働き方の変化により、企業や個人が必要とするスキルは日々変化しています。こうした変化に柔軟に対応していくために、リスキリングの重要性はますます高まっているのです。
リスキリング支援が求められる背景
現代の労働市場では、テクノロジーの進化とともに職務の内容が大きく変化しています。特にAIやDXの導入により、これまでのやり方では対応できない業務も増えてきました。
加えて、少子高齢化や人口減少に伴い、人材の有効活用が急務となっている今、既存社員のスキル再開発は企業の存続にも直結します。こうした社会背景を受け、リスキリング支援の必要性がますます高まっています。
企業におけるリスキリング支援の重要性
企業にとってもリスキリングは単なる“学び”の支援にとどまりません。変化に強い人材を育成し、社内に新たな価値を創出するための戦略的施策という側面もあります。
業務の効率化や高度化に加え、従業員のキャリア開発やエンゲージメント向上にも直結するため、持続的成長を目指す企業にとっては不可欠な取り組みといえるでしょう。
企業がリスキリング支援をするメリット
企業がリスキリングを支援することによって得られるメリットは多岐にわたります。
- 人材定着率の向上:社員の成長機会を確保することで、離職防止にもつながります。
- 業務効率の改善:新たなスキル習得により、業務改善・省力化が実現しやすくなります。
- 競争力の強化:市場ニーズの変化に応じた柔軟な対応が可能になります。
これらのメリットは、企業の生産性向上や中長期的な利益の確保に大きく影響します。
リスキリングの具体的な例
実際に企業が行っているリスキリングの例をいくつかご紹介します。
- 製造業でのデジタル機器の操作トレーニング
- 販売業におけるデータ分析スキルの習得支援
- 事務職向けのRPAツール活用講座
- 管理職向けのリーダーシップ研修やマネジメント研修
これらの取り組みは業種や企業規模を問わず、多くの企業で導入が進んでいます。
リスキリング支援で使える5つの補助金・助成金
企業のリスキリングを推進するため、国や各自治体は様々な補助金や助成金を用意しています。本記事では、企業のリスキリング支援で使える代表的な補助金・助成金を5つご紹介します。
人材開発支援助成金
リスキリングでよく使われる助成金の1つに「人材開発支援助成金」があります。『人材開発支援助成金』は、事業主が従業員に対して、職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です。この助成金には、以下の7つのコースが用意されています。
- 人材育成支援コース
- 教育訓練休暇等付与コース
- 建設労働者認定訓練コース
- 建設労働者技能実習コース
- 障害者職業能力開発コース
- 人への投資促進コース
- 事業展開等リスキリング支援コース
上記のうち、リスキリングを推進する際には、「人への投資促進コース」や「事業展開等リスキリング支援コース」がおすすめです。
人への投資促進コース
人材開発支援助成金の「人への投資促進コース」は、企業における労働者の人材育成を強力に支援するために設けられた制度です。令和4年度から令和8年度までの期間限定で実施されており、急速な技術革新や産業構造の変化に対応できる人材の育成を目的としています。
本コースでは、訓練の内容や目的に応じて以下の5つの訓練メニューが用意されています。訓練によっては、経費の最大75%が助成され、賃金助成としては最大1,000万円が支給される場合もあります。
- 定額制訓練
サブスクリプション型の研修サービスを利用して、従業員に継続的な訓練を提供するタイプの支援です。 - 高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練
AI、データサイエンスなど、高度なデジタルスキルを持つ人材や、成長産業で必要とされる人材の育成を目的とした訓練です。 - 情報技術分野認定実習併用職業訓練
IT分野未経験者に向けて、実習を含む職業訓練を行い、即戦力として活躍できるよう支援するメニューです。 - 自発的職業能力開発訓練
労働者が自発的に受講する訓練に対して、企業がその費用を負担する場合に助成対象となります。 - 長期教育訓練休暇等制度
従業員が働きながら訓練を受講できるよう、企業が休暇制度や研修時間を整備する場合に助成されます。
2024年4月より、「人への投資促進コース」の対象訓練の内容拡充や添付書類の簡素化等の見直しが行われています。
事業展開等リスキリング支援コース
人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースは、企業が新たな事業展開や業務転換に伴って従業員に必要な知識・技能を習得させる訓練を支援する制度です。DX化・グリーン化(カーボンニュートラル)に向けたスキル習得にも対応しています。
事業展開等リスキリング支援コースは以下の要件を満たした場合に支給されます。
- 訓練時間が10時間以上であること
- OFF-JT(職場外の訓練)であること
- 職務に関連した訓練で、次のいずれかに該当すること
- 新たな事業展開にあたり必要な専門知識・技能の習得
- 既存事業の中でDXやグリーン化を進める上で必要なスキルの習得
経費助成率は75%(大企業は60%)、1事業所の1年度あたりの助成限度額は1億円となっています。
DXリスキリング助成金
『DXリスキリング助成金』も企業のリスキリング支援としてよく活用される助成金です。DXリスキリング助成金は、公益財団法人東京しごと財団が実施している助成金制度です。この制度は、東京都内の中小企業等が従業員に対して、DXに関する研修を実施した際、経費の一部等を助成する制度です。
申請できる企業には、資本金や従業員数の条件があります(中小企業基本法第2条第1項の中小企業者に該当する者やみなし大企業ではないこと)。また、助成額は助成対象経費の4分の3で、助成限度額の上限は、1申請企業等あたり100万円です。上限額に達するまで複数回の申請が可能となります。
(参照:公益財団法人東京しごと財団 DXリスキリング助成金 DXリスキリング助成金 | 東京しごと財団 雇用環境整備課 (shigotozaidan.or.jp))
特定求職者雇用開発助成金~成長分野等人材確保・育成コース~
リスキリング支援で使える助成金3つ目は「特定求職者雇用開発助成金(成長分野等人材確保・育成コース)」。特定求職者雇用開発助成金は、成長分野等の業務に従事させる事業主が、就職困難者(障害者、高齢者、母子家庭の母、就職氷河期世代など)を継続して雇用する労働者として雇い入れ、成長分野の業務に従事させ、職場定着に取り組む場合に支給される助成金制度です。
成長分野の業務とは具体的には、デジタル分野では情報処理・通信技術者、データサイエンティスト、デザイナー(ウェブデザイナー、グラフィックデザイナーに限る)などの業務が該当し、グリーン分野では脱炭素・低炭素化などに関する業務が該当します。
助成額は、採用する労働者(就業困難者)により異なりますが、最大で1人あたり3年間360万円の助成を受けることができます。
(参照:厚生労働省HP 『特定求職者雇用開発助成金(成長分野等人材確保・育成コース)』 000922236.pdf (mhlw.go.jp))
ものづくり補助金
ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス補助金)は、中小企業や小規模事業者等が将来にわたって直面するさまざまな制度変更(働き方改革や被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス導入等)に対応し、サービスの開発や生産プロセス改善に伴う設備投資等を支援することを目的とした制度です。
補助金は以下の枠に分かれています。
- 省力化(オーダーメイド)枠
- 製品・サービス高付加価値化枠(通常類型)
- 製品・サービス高付加価値化枠(成長分野進出類型(DX・GX))
- グローバル枠
これらの中で、リスキリングを推進する際には「製品・サービス高付加価値化枠(成長分野進出類型(DX・GX))」が有用です。
申請には事業計画書などの提出が必要であり、すべての事業者が利用できるわけではありません。審査を受けて採択される必要があり、公募対象の枠や公募期間も細かく定められています。18次の受付はすでに締め切られていますので、今後の補助金公募の情報収集については、公式サイトの公募要領を確認することが重要です。
(参照:ものづくり補助事業公式ホームページ トップページ|ものづくり補助事業公式ホームページ ものづくり補助金総合サイト (monodukuri-hojo.jp))
IT導入補助金
リスキリング支援で使える補助金5つ目は「IT導入補助金」です。IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者が業務効率化やDX等を目指してITツール(ソフトウェア、サービスなど)を導入する際に、その費用を支援する制度です。この補助金は、補助金HPに登録されたITツールが対象であり、導入費用だけでなく相談対応やクラウドサービス利用料も支援対象です。
中小企業や小規模事業者は、IT導入支援事業者と連携して申請する必要があります。IT導入支援事業者は、中小企業や小規模事業者に対するITツールの説明や導入サポート、補助金の申請手続きなどをサポートする役割を担います。
IT導入補助金には以下5つの枠があり、それぞれ異なる目的に向けた支援が提供されています。
- 通常枠
- インボイス枠(インボイス対応類型)
- インボイス枠(電子取引類型)
- セキュリティ対策推進枠
- 複数社連携IT導入枠
(参照:IT導入補助金2024HP トップページ | IT導入補助金2024 (smrj.go.jp))
補助金の申請の流れ(IT導入補助金の場合)
補助金は、企業の投資や取り組みに対して国や自治体が資金を支援する制度で、原則返済不要です。ただし、助成金と違い事前審査制で「採択される必要がある」という点が大きな特徴です。ここでは、中小企業のデジタル化を支援する「IT導入補助金」を例に、申請の流れを解説します。
まずは自社の課題を明確にし、申請枠や補助率など制度内容を理解します。そのうえで、gBizIDプライムの取得、みらデジ経営チェックの実施、「SECURITY ACTION」宣言などの事前準備を行います。みらデジ経営チェックとは、自社の経営課題やデジタル化の進捗状況を把握できる無料のチェックツールです。
次に、IT導入支援事業者と連携して補助対象のITツールを選定し、交付申請の準備に進みます。申請は、Webシステム「jGrants」内の「申請マイページ」から行い、事業計画や必要書類(履歴事項全部証明書、納税証明書など)をアップロードして申請を完了させます。
申請後、審査を経て交付決定通知が届いた後に、ITツールの契約・導入・支払いを実施。導入完了後は、実績報告を提出し、補助金が支給される流れとなります。
一般的な助成金の申請の流れ
助成金の申請は、「書類を出せば終わり」ではなく、計画立案から実施、報告、申請まで、段階的な手続きが必要です。基本の流れは大きく以下の5ステップです。
- 情報収集と助成金の選定
自社に合った制度を調べ、目的に合う助成金を選びます。 - 計画書の作成・提出
多くの制度では、訓練や制度導入前に事前計画の提出が必要です。 - 計画の実施
認定後、計画通りに研修などを実施し、証拠資料も記録します。 - 申請書の提出
訓練後に支給申請。領収書や出席記録など、実績を証明する書類が必要です。 - 審査・支給
審査を通過すれば、助成金が指定口座に振り込まれます。
なお、助成金の申請には多くの手間と専門知識が求められるので、不安がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することで、申請の成功率を高め、事務負担も軽減できます。
まとめ
企業のリスキリングを支援する5つの補助金・助成金についてご紹介しました。従業員のリスキリングは企業成長に不可欠であり、非常に重要な役割を果たします。
しかし、リスキリングを推進するには、十分な資金を必要とします。そのため、政府や自治体は各企業のリスキリング推進を支援するため、様々な補助金や助成金制度を整備しています。これらの助成金を上手に活用し、自社のリスキリングを進めましょう。
ただし、助成金や補助金は、助成対象となる研修や助成対象受講者、助成対象経費などの要件が細かく定められており、条件を満たさなければ受給することはできません。また、手続きの流れについて把握し、申請書類の提出方法や提出期限を正しく守らなければ、助成金や補助金を受給することはできません。そのため、申請手続きは慎重に進める必要があります。
助成金や補助金の申請に不安がある場合は、社労士などの専門家の助言を求めることも有効です。専門家に相談して、助成金や補助金の申請手続きをスムーズに進めるための計画を立てましょう

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