物価高騰や人手不足が続く中、多くの企業が賃金引き上げに取り組んでいます。特に、地域別最低賃金は毎年引き上げられており、中小企業・小規模事業者にとって賃金引上げの原資確保は大きな課題です。しかし、中小企業にとって、賃金引き上げの原資を確保することは容易ではありません。
そこで活用したいのが「業務改善助成金」です。令和7年度は制度内容が大きく見直され、多くの事業所が活用しやすくなっています。本記事では、令和7年度の業務改善助成金について、申請要件から主な変更点、活用のポイントまでわかりやすく解説していきます。
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業務改善助成金とは?
業務改善助成金とは、中小企業・小規模事業者が事業場内最低賃金を一定額以上引き上げ、生産性向上のための設備投資などを行った場合に、その費用の一部を国が助成する制度です。
具体的には、事業場内最低賃金を30円以上引き上げることを条件に、機械設備の導入やコンサルティング、人材育成・教育訓練などの費用を助成します。最大で600万円までの助成を受けることができ、中小企業の賃金引き上げを支援する重要な制度として注目されています。
【令和7年度版】業務改善助成金の申請期限と事業完了期限
業務改善助成金の申請をお考えの方は、以下の期限に注意が必要です。
- 申請期限:適用される地域別最低賃金の改定日の前日
- 事業完了期限:令和8年1月31日
ただし、やむを得ない事由がある場合は、理由書の提出により令和8年3月31日まで延長できる場合があります。
また、令和6年度以前は同一年度内に2回まで申請することが可能でしたが、令和6年度から同一事業場の申請は年1回までとなっています。
【令和7年度版】業務改善助成金の支給要件
業務改善助成金の申請には、以下の3つの基本要件をすべて満たす必要があります。
- 中小企業・小規模事業者であること
- 事業場内最低賃金が改定後の地域別最低賃金額未満までであること(令和7年9月5日より拡充)
- 解雇、賃金引き下げなどの不交付事由に該当しないこと
なお、中小企業・小規模事業者の定義は業種により異なります。例えば、製造業や建設業の場合は資本金3億円以下または従業員300人以下、小売業や飲食店の場合は資本金5,000万円以下または従業員50人以下となっています。

【令和7年度版】業務改善助成金の助成金額と助成率
業務改善助成金の助成金額は、実施する賃金引き上げ額と対象となる労働者数によって決定されます。具体的には以下の4つのコースが用意されています。
30円コース
- 賃金引上げ額:30円以上
- 賃金引上げ対象の労働者数が1人の場合:30万円(30人未満の事業所は60万円)
- 賃金引上げ対象の労働者数が7人以上の場合:100万円(30人未満の事業所は120万円)
- 特例事業者で賃金引上げ対象の労働者数が10人以上の場合:120万円(30人未満の事業所は130万円)
45円コース
- 賃金引上げ額:45円以上
- 賃金引上げ対象の労働者数が1人の場合:45万円(30人未満の事業所は80万円)
- 賃金引上げ対象の労働者数が7人以上の場合:150万円(30人未満の事業所は160万円)
- 特例事業者で賃金引上げ対象の労働者数が10人以上の場合:180万円
60円コース
- 賃金引上げ額:60円以上
- 賃金引上げ対象の労働者数が1人の場合:60万円(30人未満の事業所は110万円)
- 賃金引上げ対象の労働者数が7人以上の場合:230万円
- 特例事業者で賃金引上げ対象の労働者数が10人以上の場合:300万円
90円コース
- 賃金引上げ額:90円以上
- 賃金引上げ対象の労働者数が1人の場合:90万円(30人未満の事業所は170万円)
- 賃金引上げ対象の労働者数が7人以上の場合:450万円
- 特例事業者で賃金引上げ対象の労働者数が10人以上の場合:600万円

特例事業者とは、事業場内最低賃金が一定額未満、または社会経済の変化により利益率が前年同期よりも一定以上低下している事業者のことをいいます。詳しくは後述します。
助成率
業務改善助成金の助成率については、引き上げ前の事業場内最低賃金によって以下のように設定されています。
- 1,000円未満:4/5
- 1,000円以上:3/4
令和7年度より、引き上げ前の事業場内最低賃金額に応じて設定されている助成割合について見直しが行われています。
令和7年度の特例事業者の扱い
特例事業者に該当する場合、助成上限額の拡大や助成対象経費の拡充を受けられる場合があります。特例事業者の要件は以下の2つのいずれかを満たす必要があります。
賃金要件
申請事業場の事業場内最低賃金が1,000円未満である事業者が該当します。この場合、業務改善助成金の助成上限額の拡大を受けることができます。
物価高騰等要件
原材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等の外的要因により、申請前3か月間のうち任意の1か月の利益率が前年同月に比べ3%ポイント以上低下している事業者が該当します。この場合、助成上限額の拡大に加えて、助成対象経費の拡充も受けることができます。
業務改善助成金の対象となる設備投資等
業務改善助成金の対象となる設備投資等は、生産性向上・労働能率増進に資するものである必要があります。具体的な例としては下記のようなものが該当します。
- POSレジシステムの導入による在庫管理の効率化
- リフト付き特殊車両の導入による作業時間の短縮
- 経営コンサルティングの活用による業務フローの改善
- 顧客管理システムの導入
なお、物価高騰等要件を満たす特例事業者については、通常は対象外となる以下の設備等も助成対象となります。
▼特例事業者(物価高騰等要件該当)のみ対象となるもの
- 定員7人以上または車両本体価格200万円以下の乗用自動車
- 貨物自動車
- PC、スマートフォン、タブレット等の端末と周辺機器の新規導入
業務改善助成金を申請する際の注意点
業務改善助成金の申請をする際に、注意すべきポイントをわかりやすく説明します。
事業完了期限について
事業完了期限は令和8年1月31日までとなっています。ここでいう事業完了とは、以下の3つの最も遅い日を指します。
- 導入機器等の納品日
- 導入機器等の支払完了日(銀行振込の振込日、クレジットカード等の場合は口座の引き落とし日)
- 賃金引上げ日(就業規則等の改正日)
なお、やむを得ない理由がある場合は、あらかじめ理由書を提出することで、事業完了期限を令和8年3月31日まで延長できる場合があります。
やむを得ない理由とは、例えば、納入機器に用いる半導体不足など納入業者の都合により、導入機器等の納入日が1月31日以降となる場合や、納入日が最短でも1月31日となり、支払いが2月1日以降となる場合などをいいます。
賃金引き上げに関する注意点
賃金引き上げをする際は、事業場のすべての労働者の賃金を新しい事業場内最低賃金以上に引き上げる必要があります。
また、地域別最低賃金の発効に対応して引き上げる場合は、その発効日の前日までに引き上げを完了しなければなりません。加えて、引き上げた賃金額は就業規則等に明確に定める必要があります。
令和6年度からは、複数回に分けての事業場内最低賃金の引上げは認められなくなりましたので、ご注意ください。
業務改善助成金の申請における重要事項
業務改善助成金を申請する際に、特に注意が必要なのは、交付決定のタイミングです。
助成対象設備の導入は、必ず交付決定を受けてから行う必要があります。交付決定前に設備を導入してしまうと、業務改善助成金の助成対象外となってしまうので注意しましょう。
また、令和6年度からは、同一事業場からの業務改善助成金の申請は年1回までと制限されています。さらにまた、業務改善助成金は予算の範囲内で交付される制度であるため、申請期間内であっても予算の上限に達した場合は募集が終了される可能性があります。
加えて、令和7年9月5日からは、最低賃金改定期に限り、賃金引上げ後であっても申請が可能となる拡充措置が設けられました。
従来は、申請前に賃金引上げ計画を提出し、交付決定後に賃金を引き上げる必要があり、賃金引上げ後の申請は認められていませんでした。しかし、令和7年9月5日から各地域の最低賃金改定日の前日までの期間に賃金引上げを実施している場合には、賃金引上げ計画の事前提出を省略することが可能となっています。ただし、この特例は対象期間が限定されており、当該期間外に実施した賃金引上げについては一切助成対象とならない点には注意が必要です。 申請にあたっては、賃金引上げ日と申請時期の関係を必ず確認し、制度内容を正しく理解した上で手続きを進めるようにしましょう。
業務改善助成金の交付決定後の変更について
事業計画に変更が生じた場合の手続きも重要です。
例えば、労働者の休職により引き上げ対象者数が変更になった場合や、導入予定の設備内容が変わる場合、また支払日や納品日が後ろ倒しになる場合には、「事業計画変更申請書」の提出が必要となります。このような変更の可能性が生じた際は、できるだけ早い段階で都道府県労働局に相談することが推奨されます。
令和7年度の業務改善助成金の主な変更点
令和7年度の業務改善助成金は、以下の重要な変更点があります。申請を検討している場合は必ず確認しましょう。
- 事業主単位の申請上限が「600万円」に変更
→これまで複数事業場で上限超えが可能でしたが、事業場単位から事業主単位に変更されました。 - みなし大企業(大企業と密接な関係を有する企業)が対象外に
- 基準労働者の雇用期間条件が「3か月以上 → 6か月以上」に
→業務改善助成金では、雇入れ後6か月を経過した労働者の事業場内最低賃金を引き上げる必要があります。 - 事業完了期限が「2026年1月31日」に変更
※理由書で最大2026年3月31日まで延長可 - 助成率区分の変更と生産性要件の廃止
→令和7年度からは、引き上げ前の事業場内最低賃金額に応じたシンプルな助成率区分へ見直しが行われ、生産性要件は廃止されました。令和6年度では、生産性要件の有無により助成率が異なっていましたが、令和7年度以降は事業場内最低賃金額のみを基準として助成率が決定されます。 - 最低賃金改定期に合わせた制度の拡充(令和7年9月5日〜)
→令和7年9月5日からは、より多くの中小企業が業務改善助成金を活用できるよう、対象となる事業所の範囲が拡大されました。
これまで対象となるのは、事業場内最低賃金と地域別最低賃金との差額が一定範囲内の事業所に限られていましたが、改定後の地域別最低賃金を下回る水準であれば、賃金を引き上げる場合に助成の対象となります。
さらに、最低賃金の引上げの影響を強く受ける事業所が申請しやすくなるよう、一定の期間に限り、賃金引上げ計画の事前提出が不要となる特例措置も設けられています。この拡充により、最低賃金改定に対応する中小企業にとって、より柔軟に活用できる制度となりました。
業務改善助成金の申請から助成金受給までの流れ
業務改善助成金の申請から受給までは、基本的に以下の流れで進みます。
- 交付申請:必要書類を都道府県労働局に提出
- 交付決定:労働局による審査と決定通知
- 事業実施:賃金引き上げと設備導入等の実施
- 実績報告:事業実績報告書と支給申請書の提出
- 助成金支給:審査後、助成金の支給
まず、事業場所在地を管轄する都道府県労働局に対し、業務改善助成金の交付申請書・事業実施計画書等を提出します。労働局で申請内容が審査され、要件を満たしていれば交付決定の通知を受けることができます。
交付決定後、申請内容に沿って事業を実施します。具体的には、賃金の引き上げ、設備の導入、代金の支払いなどを計画通りに進めていきます。
事業完了後は、労働局に事業実績報告書等と助成金支給申請書を提出します。労働局による事業実績報告書等の審査が行われ、適正と認められれば交付額が確定し、助成金が支払われます。
なお、申請期限は申請事業場に適用される地域別最低賃金改定日の前日まで、事業完了期限は令和8年1月31日となっています。やむを得ない事由がある場合は、理由書の提出により事業完了期限を令和8年3月31日まで延長できる場合があります。
まとめ
業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者が最低賃金の引き上げと生産性向上の取組を同時に進める際に活用できる制度です。賃金を30円以上引き上げることを条件に、設備投資や業務効率化につながる取組に対し、事業主単位で最大600万円まで助成を受けることができます。
令和7年度は制度が大きく拡充され、これまで申請が難しかった事業所でも活用しやすくなっている点が大きな特徴です。
たとえば、
- 基準労働者の雇用期間要件が「6か月以上」に緩和
- 事業完了期限は令和8年1月31日(最大3月31日まで延長可)
- 9月5日から対象事業所が大幅に拡大
- 賃金引上げ計画の事前提出が一部不要に
といった変更により、より幅広い企業が利用しやすい制度設計となりました。 賃金引上げと生産性向上を両立したい企業にとって、令和7年度は特にチャンスと言える年です。申請を検討される場合は、最新の要綱や支給要件を確認しながら、余裕をもって準備を進めることがスムーズな活用につながります。
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