令和7年6月1日より、企業の熱中症対策を義務づける改正労働安全衛生規則が施行されています。これに伴い、厚生労働省は都道府県労働局長宛に通達を出し、事業者が講じるべき具体的な対策について詳細を説明しています。今回は、この通達の内容を中心に、企業が取るべき対応について解説します。
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企業の熱中症対策が義務化された背景
近年の気候変動の影響により、職場における熱中症による労働災害が増加傾向にあります。特に、休業4日以上の死傷災害は過去最多を記録し、死亡災害も複数年連続で多く発生しており、労働災害による死亡者数全体の約4%を占める状況です。
これらの災害の多くは、初期症状の見逃しや対応の遅れが原因とされており、こうした背景から、今回の改正では、熱中症が疑われる者の早期発見や重篤化防止のための新たな措置が義務付けられることになりました。
対象となる事業者
今回の改正では、令和7年6月1日以降、「熱中症を生ずるおそれのある作業」を行う事業者に対して、「新たな措置」を講ずる義務が課されます。ここで言う「熱中症を生ずるおそれのある作業」とは、気温31度以上または湿球黒球温度(WBGT)28度以上の暑熱な場所において、継続して1時間以上、あるいは1日4時間を超えて行われることが見込まれる作業を指します。
これには、特定の作業場に限らず、出張先や移動中なども含まれます。暑熱な場所かどうかの判断は原則として作業場所での実測値に基づきますが、天気予報や環境省が提供する熱中症予防情報サイトの活用も認められています。
事業者に義務付けられる二つの新たな措置
改正により事業者には、熱中症の予防と早期対応のため、次の二つの措置が義務づけられました。
- 熱中症による健康障害を防止するために講ずるべき体制整備と関係作業者への周知
- 熱中症による健康障害を防止するために講ずるべき措置の実施手順の作成と関係作業者への周知
体制の整備とその周知
事業者は、「熱中症を生ずるおそれのある作業」を行う際、作業者が熱中症の自覚症状を訴えたり、他の作業者の異変に気づいたりした際に、それを速やかに報告できる体制を構築しなければなりません。
この体制には、報告先となる責任者の連絡先や連絡方法の整備、そして作業時間中に確実に報告を受けられる体制の維持が求められます。単に電話での連絡にとどまらず、責任者による巡回や、ウェアラブルデバイスの活用など、より積極的な発見手段の導入も推奨されています。
こうした体制の整備は、単に整えただけではなく、関係作業者に対して明確に伝えられる必要があります。伝達手段としては、掲示物の設置、メール送信、文書配布、朝礼での説明などがあり、これらを組み合わせて実施することで、周知の徹底を図ることが望まれます。
講ずるべき措置の実施手順の作成と周知
また、作業場所ごとに熱中症の症状の悪化を防止するための必要な措置の内容及びその実施に関する手順を定めなければなりません。この手順には、作業からの一時離脱や身体の冷却、必要に応じた医療機関への搬送などが含まれなければなりません。
身体の冷却方法には、作業着を脱がせて水をかける、アイスバスへの浸漬、涼しい休憩所への退避、ミストファンの使用、さらにアイススラリーの摂取といった体内冷却手段も含まれます。
これらの手順は、実際の作業環境や人員体制に即して、無理のない形で具体的かつ実行可能に設計することが重要です。厚生労働省からは参考となる手順例も示されており、これを参考にしつつ、事業場独自の手順を定めて差し支えありません

策定された手順は、報告体制と同様、全ての関係者に周知される必要があります。周知方法も掲示、文書、口頭伝達などを組み合わせる形が推奨されています。
改正に関連するその他のポイント
今回の規則改正にあわせて、「職場における熱中症予防基本対策要綱」も見直されました。この要綱には、WBGT値の活用方法をはじめ、作業環境や作業時間の管理、従業員の健康状態のチェック、万が一の場合の救急処置まで、包括的な熱中症予防策が盛り込まれています。人事担当者は、要綱の内容も合わせて確認し、自社の熱中症予防対策全体を見直すことが重要です。
また、熱中症のリスクを高める要因として、睡眠不足、体調不良、飲酒、朝食の欠食のほか、糖尿病や高血圧などの基礎疾患、さらには広範囲な皮膚疾患や精神疾患、肥満などが指摘されています。作業開始前の健康確認や、日常的な健康指導、必要に応じた産業医との連携も極めて重要です。
人事担当者が確認すべきポイント
令和7年6月1日の施行にあわせて、企業の人事担当者は、自社の業務に熱中症リスクがあるかどうかを今一度確認する必要があります。加えて、報告体制の整備や、対応手順の策定・周知が確実に行われているかを点検しなければなりません。
また、改正要綱の内容に基づいて、現行の熱中症対策を全体的に見直し、より実効性の高い予防策を検討することも重要です。
就業規則の見直しも検討を
今回の熱中症対策に関する法改正を受けて、企業においては就業規則の内容についても見直しが必要となる場合があります。たとえば、暑熱環境下での作業を考慮して就業時間を前倒しに変更する、休憩時間を延長する、あるいは作業時の服装規定を緩和するといった対応が求められるかもしれません。
このような労働条件の変更が実施される場合、就業規則の内容と実態が一致していないと、従業員との間でトラブルに発展するリスクもあります。法改正にともない制度や運用を見直す際には、就業規則への反映もあわせて検討すべき重要なポイントです。
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まとめ
熱中症は、最悪の場合、命に関わる深刻な災害となり得ます。今回の法改正により、企業にはそのリスクをいち早く察知し、確実に対応する体制と手順の整備が求められるようになりました。人事担当者としては、こうした制度の趣旨を正しく理解し、職場全体で実効性のある熱中症対策を実施していくことが重要です。
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