2025年7月25日、厚生労働省は「労働安全衛生規則の一部を改正する省令案」について、パブリックコメントを公表しました。今回の改正案では、これまで労働者死傷病報告の対象外だった「個人事業主」や「中小企業の役員等」も、報告の対象として含まれる見通しとなっています。
特に、請負・委託関係が多く発生する事業所においては、報告義務の範囲拡大により実務上の影響が大きくなる可能性があります。
労働安全衛生規則改正のポイント
今回の省令改正案では、労働者死傷病報告の対象が見直され、「個人事業者」や「中小企業の役員等」が被災した場合にも、一定の条件のもとで報告が必要になるとされています。
今回示された主な改正点は、主に下記の3つです。
個人事業主の業務災害に対する報告義務
まず1つ目は、個人事業主(いわゆるフリーランスや一人親方など)が、仕事中の業務災害によって死亡したり、4日以上の休業をした場合の取扱いについてです。
このような災害が発生した場合には、その個人事業者に直接仕事を発注していた事業者(=特定注文者)が、労働基準監督署に報告を行う義務を負うことになります。
なお、業務が数次の請負契約からなっていて、複数の事業者が関与している場合には、当該個人事業主に業務を委託している注文者(=最も後次の注文者)が報告義務を負います。
さらに、災害発生現場に特定注文者が存在しない場合には、現場を管理している事業者(災害発生場所管理事業者)が代わって報告義務を負うこととされています。
ただし、脳・心臓疾患や精神障害など、過重労働に起因する疾病はこの報告義務の対象外となります。
中小企業の役員等が業務災害に遭った場合の報告義務
2つ目の改正点は、中小企業の役員や経営層の方が、労働者と同じ場所で作業を行っている際に業務災害に遭い、死亡または4日以上の休業となった場合の取り扱いについてです。
このような場合には、その中小企業の事業者が労働基準監督署に報告を行う義務を負うことになります。
この報告義務も、脳・心臓疾患、精神障害といった過重労働による疾病は対象外とされています。
脳・心疾患・精神障害は自ら報告
3つ目の改正では、個人事業主や役員等が、自分で報告する精度が設けられます。
これは、個人事業者や中小企業の役員等が、過重労働を原因とする脳血管疾患、心臓疾患、または精神障害を発症した場合に、本人が自ら労働基準監督署へ報告できるというものです。
この制度は義務ではなく、あくまで任意による報告制度とされています。
改正労働安全衛生規則の施行は2027年1月1日
今回の省令改正案は、2025年11月に公布される予定で、施行は2027年1月1日が予定されています。
施行まで1年以上の期間が設けられていますが、建設業や請負・多重下請けが関係する業種では、該当する個人事業主の把握や契約関係の整理、災害時の対応体制の整備が求められるため、早めの情報収集と対応が必要になります。
まとめ
今回の省令改正案は、「労働者」に限られていた労働者死傷病報告の制度を見直し、個人事業主や中小企業の役員等にも安全衛生面での配慮を広げるものとなります。
企業の人事・労務担当者としては、以下の点に特に注意が必要です。
- 請負・委託関係にある個人事業主の把握と契約関係の整理
- 災害発生時の報告ルートや責任者の明確化
- 報告義務の対象とならない疾病(脳・心・精神)との区別
- 任意報告制度に対応した情報提供や社内フローの整備
なお、現時点では本改正案はパブリックコメントの段階にあり、公布や施行の時期、内容が今後変更される可能性もあります。人事・労務のご担当者としては、こうした動向を継続的に把握しつつ、早めに情報を整理し、必要な準備を進めておくことが重要です。