近年、男性社員の育児休業取得を後押しする制度改正が相次いでおり、企業としても「自社の男性育休取得状況は業界・全国平均と比べてどうか」を把握したいという関心が高まっています。
本記事では、まず制度の基本を押さえたうえで、「男性の育児休業取得日数の平均値・取得率データ」「企業にとって育児休業取得促進のメリット」「育児休業中の支援制度」などを解説します。
そもそも男性の育児休業(育休)とは?
男性の育児休業(育休)とは、配偶者の出産に伴って、男性従業員が育児に関与するため取得できる休業制度です。従来からあった「育児休業制度」に加え、2022年10月から「産後パパ育休(出生時育児休業制度)」が導入されたことにより、制度の選択肢が増えています。
「産後パパ育休(出生時育児休業)」と「育児休業制度」は、対象期間・取得可能日数・給付制度等の点で異なる制度として扱われます。ただし、両者を組み合わせて連続取得することも認められています。
産後パパ育休(出生時育児休業制度)と育児休業制度との違い
以下は主な違いは下記のとおりです。
項目 | 産後パパ育休(出生時育児休業) | 育児休業制度 |
---|---|---|
対象期間 | 子の出生後8週間以内 | 原則、子が1歳に達する前まで(事情により最長2歳まで延長可能) (2022年の改正で、2回まで分割取得可能) |
取得可能日数 | 通算で最大28日(4週間相当、2回まで分割取得可) | |
申出期限 | 原則、休業開始日の2週間前まで(会社と合意の上で例外もあり) | 原則、休業開始日の1か月前までに申し出る必要あり |
休業中の就業 | 労使の合意があれば休業中に一定の範囲内で就業が可能 | 原則不可 |
このように、「出生直後の育児参加の機会を確保するための制度」と「比較的長期間育児に関わるための育児休業制度」が、それぞれの役割を持って存在しているイメージです。
男性の育児休業取得期間の平均は46.5日
厚生労働省の「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」によると、「男性の育児休業取得日数の平均」は 46.5日 との報告があります。これは、育児休業を実際に取得した男性を母数とした平均値です。
ただし注意点として、この平均には「そもそも育休をまったく取っていない男性」は含まれていません。つまり、この平均は「取得した人の中で、どれくらい取得したか」の指標であって、配偶者が出産した全男性を対象とした平均値ではありません。
そのため、母数を「配偶者が出産したすべての男性」に拡げると、実質の平均取得日数は もう少し短くなる と考えられます。
(参考「厚生労働省:「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」 報告書」https://ikumen-project.mhlw.go.jp/assets/pdf/event/report_R5.pdf)
男性の育児休業取得率は46.2%
同じく厚生労働省の調査によれば、男性の育児休業取得率は46.2%となっています。
ただし、この値は従業員数1000人以上の企業を対象とした調査です。すべての企業を対象とした「令和5年度雇用均等基本調査」では、女性の育児休業取得率が84.1%であるのに対し、男性の育児休業取得率は 30.1% となっており、こちらの方が実態に近い数値と考えられます。
(参考「令和5年度雇用均等基本調査の結果概要」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r05/07.pdf)
企業が男性育休を推進するメリット
企業が男性の育児休業取得を推進することには、次のようなメリットがあります。
- 企業イメージの向上
- 従業員のエンゲージメント向上
- 職場環境の改善
まず、社会的な関心が高まる中で男性の育休取得を積極的に支援することは、企業イメージを高める重要な要素となります。実際に厚生労働省の調査では、男性育休を推進した企業では「採用応募者の増加」や「メディアからの注目」などの効果が報告されています。
また、育休を取得しやすい職場づくりは、従業員のエンゲージメント向上にもつながります。家庭と仕事の両立を支援する姿勢が社員の安心感や信頼感を生み、結果として離職率の低下や生産性の向上をもたらします。
加えて、男性育休の取得が進むと、育児や家庭の事情をオープンに話せる雰囲気が広がり、社員同士の理解や協力体制が自然と強まります。結果として、男女問わず柔軟な働き方がしやすくなり、チーム全体の働きやすさが向上します。
男性の育児休業取得を促進した企業は助成金が受けられる
男性従業員が育児休業を取得した際には、国の助成金制度を活用でき、導入コストを抑えることが可能です。代表的なものが「両立支援等助成金(出生時両立支援コース)」です。
具体的には、以下のような制度設計がなされています:
- 第1種コース:子が生まれてから8週間以内に、男性従業員が連続して5日以上の育児休業を取得した場合、20万円が支給される
- 第2種コース:前年度を基準に、男性育児休業取得率を30%以上上昇させ、かつ50%以上を達成した場合に60万円が支給される
助成金制度をうまく設計に組み込むことで、企業側の負担感を軽減しながら育休制度を推進できます。
男性の育児休業を支援する制度
男性が育児休業を取得する場合、次のような公的支援制度が用意されています。
育児休業給付金
育児休業を取得する場合、一定の要件を満たせば、雇用保険から「育児休業給付金」が支給されます。通常、1歳未満の子を養育するための休業に対して適用され、育児休業開始から180日目までは休業開始前の賃金の67%、181日目からは、50%が支給されます。
出生時育児休業給付金(産後パパ育休給付金)
2022年10月から導入された制度で、男性が子の出生後8週間以内に取得する「産後パパ育休(出生時育児休業)」に対して支給される給付金です。条件を満たせば、最大28日分まで給付を受けることができます。支給率は育児休業と同じく67%です。
なお、この給付金は育児休業給付金と別枠で設計されており、制度を併用して利用することが可能です。
出生後休業支援給付金(2025年4月創設)
2025年4月から、出生直後の一定期間に育児休業を取得した産後パパ育休・育児休業取得者に対して、追加給付を行う制度が創設されています。具体的には、従来の給付率67%に対して13%を上乗せし、最大で休業開始時賃金の80%相当を給付対象とする枠組みが設けられています(最大28日分まで)。
育児時短就業給付金(2025年4月創設)
2025年4月からは、出生後休業支援給付金と並んで、育児休業後に時短勤務制度を利用した際の給付制度「育児時短就業給付金」も創設されています。子育てと仕事の両立を支援する一環として、育休後の移行期に経済的支援を行う制度で、原則として、育児時短就業中に支払われた賃金額の10%相当額が支給されます。
育休期間中・育休後の社会保険料免除
3歳未満の子を養育するための育児休業等を取得した期間については、健康保険・厚生年金保険の保険料が事業主負担分・被保険者負担分ともに免除されます。申出手続きが必要であるため、会社はきちんと手続きを行う必要があります。
また、育児休業等の終了後(子が3歳未満を養育)に賃金が下がった場合、事業主経由で申し出ることで標準報酬月額を改定することが可能です。これにより、実際の収入に見合った社会保険料の負担にすることができます。
まとめ
本記事では、男性従業員の育児休業取得期間の平均データ・取得率・企業側のメリット・支援制度を中心にご紹介しました。
ただし、男性の育休取得期間「平均46.5日」という数字は、主に大企業を対象にした調査に基づくため、中小企業を含む実態とは乖離している可能性があります。自社の状況と比較する際は、この前提を踏まえ、企業規模や対象範囲の違いを踏まえて考えることが重要です。
一方で、男性の育休取得には、採用・定着・生産性・企業ブランドといった経営面のメリットが数多くあります。制度拡充に伴う助成金や各種給付、社会保険料の免除など、促進のための仕組みも整いつつあります。こうした制度を有効に活用し、自社に合った目標値を設定し、制度と運用の両輪で取得促進を進めていきましょう。