アルバイトやパート従業員について、正社員登用や賃上げをすることは、従業員の労働意欲の向上や離職率の低下だけでなく、企業のイメージアップや生産性の向上にもつながります。ただ、費用負担の面から躊躇してしまうケースも多いのではないでしょうか。
そんなとき、活用したいのが「キャリアアップ助成金」です。
キャリアアップ助成金は、パートや契約社員などの非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善に取り組む事業者を支援する制度で、実際に多くの企業で活用されています。2026年度は、正社員化コースの見直しや新たな加算措置の創設、短時間労働者の労働時間延長を支援するコースの新設など、制度が見直されました。
本記事では、キャリアアップ助成金とはどんな助成金なのか、2026年度の支給額や対象者、申請方法、利用上の注意点などについて、わかりやすく解説します。
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キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金は、パートやアルバイト、契約社員などの非正規雇用労働者について、正社員化や賃金の引き上げ、待遇改善などに取り組む事業主を支援するための助成金です。
例えば、次のような取り組みを行う場合に活用できます。
- パートや契約社員を正社員にしたい
- 非正規雇用労働者の賃金を引き上げたい
- 正社員と非正規雇用労働者の賃金制度を共通化したい
- 非正規雇用労働者に賞与や退職金制度を導入したい
- 社会保険の加入に伴い、労働時間の延長や処遇改善を行いたい
キャリアアップ助成金には、こうした取り組みの目的に応じて、2026年度は6つのコースが用意されています。非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を進めることで、人材の定着や働きやすい職場づくりにつなげられる点が、キャリアアップ助成金を活用するメリットの一つです。
キャリアアップ助成金の対象となる事業主とは
キャリアアップ助成金の対象となるのは、一定の要件を満たして労働者を雇用している事業者です。中小企業から大企業まで、幅広い事業主が活用できる制度です。「自社でも使えるかな?」と疑問に感じたら、まずは以下の「キャリアアップ助成金の対象となる事業主」と「中小企業の判定基準」の2つのチェックをしてみましょう。
キャリアアップ助成金の対象となる事業者の要件
助成金を使いたいからといって、正社員化や賃上げを行えば自動的に支給されるわけではありません。キャリアアップ助成金を活用するには、会社として以下の要件を満たしている必要があります。
- 雇用保険の適用事業所であること
- 雇用保険の適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いていること
- 雇用保険の適用事業所ごとに、対象労働者に係るキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長に提出していること
- 実施するコースの対象労働者について、労働条件、勤務状況、賃金の支払い状況などを確認できる書類を整備していること
- キャリアアップ計画期間内に、対象労働者のキャリアアップに取り組んでいること
支給申請時点で、各コースに定められたすべての支給要件を満たしている必要があります。なお、キャリアアップ助成金は、民間企業だけでなく、医療法人や社会福祉法人、NPO法人なども要件を満たせば対象となります。
キャリアアップ助成金における中小企業とは(中小企業の判定基準)
キャリアアップ助成金の支給額は、企業規模によって異なります。原則として、資本金・出資総額または常時雇用する労働者の人数によって中小企業に該当するかを判断します。
キャリアアップ助成金において「中小企業(正確には中小企業事業主)」とは、以下の表のいずれかに該当する事業主のことをいいます。自社が「中小企業」に当てはまるかどうかは、以下の表で確認できます。

※「常時雇用する労働者」とは、2か月を超えて使用される者(雇用期間の定めがない者や、2か月を超える雇用期間の定めがある者を含む)で、週当たりの所定労働時間が、事業主に雇用される通常の労働者とおおむね同等の者をいいます。
キャリアアップ助成金の各コース
キャリアアップ助成金は「正社員化支援」と「処遇改善支援」の大きく2つに分けられます。「正社員化支援」は2コース、「処遇改善支援」は4コースから成り、2026年度は合計6つのコースから選択が設けられています。
(正社員化支援)
- 正社員化コース
- 障害者正社員化コース
(処遇改善支援)
- 賃金規定等改定コース
- 賃金規定等共通化コース
- 賞与・退職金制度導入コース
- 短時間労働者労働時間延長支援コース
以下では、それぞれのコースについて詳しく解説をします。
正社員化コース
正社員化コースは、パートやアルバイト、契約社員などの非正規雇用労働者を「正社員」に転換した場合に支給される助成金です。
支給される助成額は、対象事業主が中小企業か大企業か、また、対象となる労働者が有期雇用労働者か無期雇用労働者かなどによって異なります。さらに、2026年度の正社員化コースでは、「重点支援対象者」に該当するかどうかによっても助成額が異なります。
主な助成額は下記の通りです。
| 転換区分 | 中小企業の助成額 | 大企業の助成額 | ||
|---|---|---|---|---|
| 重点支援対象者 | 重点支援対象者以外 | 重点支援対象者 | 重点支援対象者以外 | |
| 有期 → 正規 | 80万円(40万円×2期) | 40万円(40万円×1期) | 60万円(30万円×2期) | 30万円(30万円×1期) |
| 無期 → 正規 | 40万円(20万円×2期) | 20万円(20万円×1期) | 30万円(15万円×2期) | 15万円(15万円×1期) |
※重点支援対象者とは、次のいずれかに該当する有期雇用労働者等をいいます。
- 雇入れから3年以上の有期雇用労働者
- 雇入れから3年未満で、次の①②の両方に該当する有期雇用労働者
└①雇入れの日の前日から過去5年間に、正規雇用労働者として雇用された期間が合計1年以下である
└②雇入れの日の前日から過去1年間に、正規雇用労働者として雇用されていない - 派遣労働者、母子家庭の母等、人材開発支援助成金の特定の訓練を修了した者
上記の表のほか、正社員化コースにはさまざまな加算措置があります。
例えば、 正社員転換等制度を新たに規定し、当該制度に基づいて正社員に転換等した場合には、1事業所当たり中小企業の場合20万円、大企業15万円の加算措置があります。
また、多様な正社員(勤務地限定・職務限定・短時間正社員)制度を新たに規定し、当該制度に基づいて正社員に転換した場合や、正規雇用労働者への転換等に関する所定の情報を自社のウェブサイトまたは職場情報総合サイト(しょくばらぼ)に公表した場合にも、一定額が加算されます。

障害者正社員化コース
障害者正社員化コースは、障害者雇用の促進と職場定着を目的として、障害のある非正規雇用労働者の処遇改善をした事業主が対象となります。
具体的には、一定の障害を有する労働者について、有期雇用から正規雇用への転換、有期雇用から無期雇用への転換、無期雇用から正規雇用への転換を実施した場合に、事業主に助成金が支給されます。
助成額は、障害の程度や処遇改善の内容等によって異なります。

なお、民間企業の障害者労働者の法定雇用率は、2026年7月から2.7%に引き上げられています。これにより、常時雇用する労働者が37.5人以上の事業主は、障害者を1人以上雇用する義務があります。
障害者雇用では、職場環境の整備や作業施設の改善など、一定の費用が発生する場合があります。キャリアアップ助成金を活用することで、障害のある非正規雇用労働者の雇用形態の転換を支援し、職場定着につなげることができます。
賃金規定等改定コース
賃金規程等改定コースは、非正規雇用労働者の賃金規定等を改定し、基本給3%以上増額した事業主に対して支給される助成金です。
企業の最低賃金の引き上げ対応や、物価高に伴うベースアップのタイミングなどに活用できる制度です。
| 引き上げ率 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 3%以上4%未満 | 4万円 | 2.6万円 |
| 4%以上5%未満 | 5万円 | 3.3万円 |
| 5%以上6%未満 | 6.5万円 | 4.3万円 |
| 6%以上 | 7万円 | 4.6万円 |
なお、賃金規定等の改定が「職務評価」を経て行われた場合、中小企業で20万円、大企業で15万円が職務評価加算として加算されます。さらに、有期雇用労働者等の昇給制度を新たに設けた場合も、中小企業で20万円、大企業で15万円が加算されます。
「職務評価」とは、職務の大きさを相対的に比較し、その職務に従事する労働者の待遇が職務の大きさに応じたものとなっているかを把握する手法です。具体的には、要素別点数法、単純比較法、要素比較法などがあります。
なお、最低賃金法で定められた最低賃金に達するまでの増額(最低賃金を下回っている賃金を補うための引き上げ)は、助成金の対象外となるので注意が必要です。
賃金規定等共通化コース
賃金規定等共通化コースは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者で、職務などに応じた賃金のルールを共通化する取り組みを支援するコースです。
具体的には、就業規則や労働協約などに基づいて、事業主が雇用するすべての有期雇用労働者等に対し、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、適用した場合に助成されます。
支給額は、中小企業の場合は60万円、大企業の場合は45万円です。
賞与・退職金制度導入コース
賞与・退職金制度導入コースは、就業規則や労働協約などに基づいて、事業主が雇用する有期雇用労働者等を対象に、賞与・退職金制度を新たに設け、支給または積立を行った場合に助成されるコースです。
賞与または退職金制度のどちらかを新たに導入した場合、中小企業は40万円、大企業は30万円が支給されます。
賞与と退職金制度の両方を新たに導入した場合、上記の金額に加算があり、中小企業は56.8万円、大企業は42.6万円が支給されます。
短時間労働者労働時間延長支援コース
短時間労働者労働時間延長支援コースは、2025年7月に新設されたコースです。
パートやアルバイトなどの短時間労働者には、社会保険の加入による手取り額の減少を避けるため、働く時間を抑えて「年収の壁」を超えないようにするケースがあります。
こうした状況に対応するため、短時間労働者の労働時間を延長し、社会保険への加入や収入の増加につなげる取り組みを支援するのが「短時間労働者労働時間延長支援コース」です。
このコースでは、労働時間の延長などによって新たに社会保険に加入させた場合の「1年目の取組」と、その後さらに労働時間の延長や賃金の引き上げなどを行った場合の「2年目の取組」に対して、それぞれ助成金が支給されます。
労働者にとっては、年収の壁を意識せず働ける環境づくりや、社会保険への加入による保障の充実につながります。一方、事業主にとっては、短時間労働者により長く働いてもらえる環境を整えることで、人手不足の解消につなげることが期待できます。

※小規模企業とは、常時雇用する労働者の数が30人以下である事業主を指します。
キャリアアップ助成金の申請方法
キャリアアップ助成金の申請方法は、キャリアアップ計画の作成やキャリアアップ管理者の配置など、その他の助成金とは異なる点があります。事前に申請方法をよく確認し、計画的に行う必要があります。
コースごとに多少の違いはありますが、キャリアアップ助成金の基本的な流れは以下の通りです。
- キャリアアップ管理者を配置し、労働組合等の意見を聴いたうえで「キャリアアップ計画」を作成する
- 作成したキャリアアップ計画を、管轄のハローワークに提出する
- 各コースの支給要件に基づき、正社員化や賃金の改定等の取り組みを実施する
- 取り組み後、各コースで定められた期間について賃金を支払う
- 取り組み後6か月分の賃金を支払った日の翌日から2か月以内に支給申請を行う
- 審査に通過後、助成金が支給される
キャリアアップ助成金申請時の注意点
キャリアアップ助成金は、決められた要件や手続きに沿って取り組まなければ、助成金が支給されない場合があります。特に、取り組みを始める前の準備や、就業規則などの整備が重要です。キャリアアップ助成金を申請する際は、以下の点に注意しましょう。
取り組み開始前に必要な手続きがあります
正社員化や処遇改善などの取り組みを実施する前に、「キャリアアップ管理者の配置」や「キャリアアップ計画」の作成・提出といった手続きが必要です。特に、キャリアアップ計画は各コースの実施日の前日までに管轄の都道府県労働局へ提出する必要があります。
これらの手続きが完了する前に正社員化などを行うと、助成金の対象とならない可能性があるため、事前に必要な手続きを確認しておきましょう。
就業規則などへの明記が必要
非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を行うだけでは、助成金が支給されるとは限りません。
コースによっては、正社員化の制度や賃金規定、賞与・退職金制度などを就業規則や労働協約に定め、その内容に基づいて取り組むことが必要です。就業規則の改定や届出には時間がかかる場合もあるため、取り組みを始める前から計画的に準備を進めましょう。
助成金の支給までには時間がかかる
キャリアアップ助成金は「キャリアアップ管理者の配置」や「キャリアアップ計画」の作成・提出などを済ませたうえで、正社員化や処遇改善などに取り組む必要があります。
さらに、コースによっては取り組み後の一定期間について賃金を支払い、その後に支給申請を行う必要があります。申請後も労働局による審査が行われるため、取り組みを始めてから助成金が支給されるまで、1年程度かかる場合があります。
助成金をすぐに受け取れるわけではないことを理解し、資金繰りも含めて余裕を持った計画を立てることが大切です。
取り組み後に要件を修正することはできません
キャリアアップ助成金では、取り組みを実施した後に要件を満たすよう内容を変更することはできません。
例えば、賃金の引き上げを行った後、申請時になって必要な引き上げ率を満たしていないことに気づいたとしても、過去にさかのぼって取り組み内容を変更することはできません。
助成金を受給するためには、取り組みを始める前に各コースの支給要件や必要な手続きを確認し、要件を満たす形で取り組むことが重要です。
以上の注意点を踏まえ、キャリアアップ助成金を申請する際は、事前に要件や手続きを確認し、計画的に準備を進めましょう。
キャリアアップ助成金を不正受給するとどうなる?
近年、キャリアアップ助成金の不正受給が増加していますが、不正受給が判明した場合は厳しい制裁が待っています。ここでは、不正受給の影響について説明します。
まず、不正受給が発覚した場合、不正に受給した助成金は全額返還しなければなりません。さらに、助成金が支給された翌日から返還日までの期間に対し、年3%の延滞金と返還額の20%に相当する違約金も合わせて支払う必要があります。
加えて、不正受給が発覚すると、以後5年間は他の助成金も申請できなくなります。これらのペナルティは非常に大きなものとなるため、虚偽の申請は絶対に避けるべきです。
不正受給は、企業に大きな金銭的負担を生じさせるだけでなく、今後の助成金の利用にも影響します。キャリアアップ助成金を活用する際は、正しい情報に基づいて適切に申請しましょう。
まとめ
キャリアアップ助成金は、パートやアルバイト、契約社員などの非正規雇用労働者の労働意欲を向上させ、キャリアアップを促進するために厚生労働省から事業主へ支給されます。この助成金を有効に活用することで、非正規雇用労働者の意欲やエンゲージメントが向上し、企業や事業主にも多くのメリットが期待できます。
コースによって対象となる取り組みや支給額、支給要件が異なるため、自社の取り組みに合ったコースを選び、要件を事前に確認することが重要です。
また、キャリアアップ助成金は、取り組みを実施した後に申請すればよいわけではありません。キャリアアップ計画の提出や就業規則の整備など、取り組みを始める前に必要な準備があります。
キャリアアップ助成金を活用する際は、事前に支給要件や手続きを十分に確認し、余裕を持って計画的に準備を進めましょう。
参考:厚生労働省HP キャリアアップ助成金
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
参考:厚生労働省HP キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/index_00004.html
参考:厚生労働省HP 「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」 https://www.mhlw.go.jp/content/001064502.pdf
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